KISS
「はるか、起きて」
 朝食の支度を終えると、私はいつものように彼女の眠るベッドへと戻った。
「ねぇ、はるか」
 この人はいつも寝起きが悪いから。私は目が覚める魔法をかける。
 指先で彼女の唇をなぞり、くちづけを交わす。
「ん」
 童話なんかではキスをするのは王子様で、目覚めるのはお姫様。私も本当はそれが理想なんだけど。こう、王子様がおねぼうさんじゃ、いつまで経っても眠ったままになってしまうから。
「……み、ちる」
 その言葉が、寝言なのかどうかは分からない。だけど、私がキスをすると彼女は必ず私の名前を呼んでくれる。そうし私の首に腕を絡ませては、もっと深く唇を重ねてくる。
「……おはよう、おねぼうな王子様。お目覚めはいかがかしら?」
 なんて。離れた温もりに淋しさを感じながらも、彼女の瞳に私が映っていることに安心して、微笑む。
「お陰さまで。ばっちり目が覚めましたよ、お姫様」
 お互い、軽く息を乱しながら。そんな冗談を言っては微笑いあう。
 いつもなら、それで起きるのだけれど。今日は久しぶりの2人揃っての休日とあってか、彼女は私の腰に腕を回すとそのまま抱き寄せた。
 また、唇が重なる。
「は、るか。朝食……」
「僕はみちるが食べたいんだけどな」
「昨日充分食べつくしたでしょう?」
「アレくらいじゃ。腹八分目にもならないよ」
 啄ばむようなキスを交わしながら、私は促されるまま倒されてしまう。
 折角の食事が冷めてしまうわ、なんて思ったけれど。彼女からのキスを受けていると、折角の2人の熱が冷めてしまう方が勿体無い気がして抵抗できない。
「ねぇ、みちる?」
「なぁに、はるか」
「ここんとこ、何だかキスが上手くなったんじゃない?まさか誰かで練習してたりとか、してないだろうね」
 言って深くくちづけてくると、彼女は慣れた手つきで私の服を剥ぎ取った。まるでマシンの点検でもするかのように、私の肌を凝視する。
「はるかの方こそ。……それより、上手い下手が分かるっていうのはどういうことかしら?まさか、比較対象がいるわけじゃないでしょう?」
 朝の陽りの下。私の体を見つめる彼女の眼差しが妙に恥ずかしくて。私は少し意地悪な科白を言うと、彼女の首に腕を回してキスをした。
「まさか」
 唇を離した彼女が、いつものように笑う。
「でも、もし僕のキスが上手くなってるように感じるのだとしたら。それは君とそれだけの数をこなしてるってことだよ。……もしくは」
「もしくは?」
「僕のキスに含ませてる愛情って名の媚薬が、日毎に多くなってきてるから。かな」
 彼女らしい気障な言い回し。なにそれ、と言って笑おうと思ったけれど、意外にもその言葉の効力は強くって。
「みちる?顔が赤いけど?」
 余裕の笑みを見せる彼女に。
「もうっ」
 と、私はそれだけを呟くのが精一杯だった。


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