pussy
 もう部屋を引き払ってもいいんじゃないのというくらい普段はうちに入り浸っている彼女がここ一ヶ月来ないものだから。私は不意打ちに彼女の部屋を訪れてみた。合鍵があるからオートロックでも容易く密かに進入できる。
 彼女が部屋にいることは、バイクや車があることから分かっていた。徒歩で出掛けていたり、誰かの車にでも乗ってたりするのなら別だけれど。
 なんて。
 これじゃあじゃまるで浮気調査じゃない。
 最上階へ向かう重力を感じながら、私は苦笑した。
 けれど、胸にある一抹の不安は消えない。
 もし病気なら私に連絡してくるはず。心配させまいとした風を装って。そうやっていつも私を心配させる。本当はそれが彼女の狙い。彼女は、強いけれど淋しがりだから。
 それなのに。連絡が無いなんて。何か、私には言えない何かがあるに違いないと。
 彼女を信じていないわけじゃない。でも。信じているだけじゃ、不安は消えない。
 ドアの前に立ち、深呼吸をする。数えるほどしか使っていない鍵を差し込み、ゆっくりと回す。
 泥棒みたいね。
 心臓の音が大きくて。ロックが外れる音は聞こえなかった。
 鍵を抜き、ノブに手をかける。これでチェーンがかかっていたらどうしようかと一瞬思ったけれど、それは杞憂に終わった。
 静かに、扉が開く。
「あはは。ヤメロって。くすぐったいだろ」
 足を踏み入れる前に、楽しげな彼女の声が聞こえた。一歩足を踏み入れ、耳を澄ましてみる。
 けれど、相手の声は聞こえない。
 一体誰といるの?
 あんなにも楽しげな彼女の声は、私だってそうそう聞けるものじゃない。甘えた声ならよく聞くけど、無邪気なそれとなるとなかなか難しい。
 その原因はいまひとつ無邪気になれない私にあるのかもしれない。
 だとしたら。いいえ。だとしても。
 私は深呼吸をするとすりガラスの嵌められたドアの向こうを目指して足を進めた。
 何してるんだろう、私。バカみたい。
 緊張している自分に思わず苦笑する。苦笑、した。つもりだったけど。多分、こわばっているだろう。
「……はるかっ」
 ドアを開けると同時に、私は彼女の名前を呼んだ。そして。
「あれ、みちる?」
 いつもと変わりない表情で私を呼ぶ彼に、その現状に、目を疑ってしまった。
「はるか。あなた、その子……」
「ああ、こいつ?可愛いだろ。一ヶ月くらい前から、かな。同棲してるんだ」
「……誰の子?」
「さぁね。雨に濡れて震えてたんで、拾ってきたんだ」
 ほら、と私に向かってその子を差し出す。
「ニャ」
 か細く短い声を上げたその子は、丸い目で私を暫く見つめたまま、首を傾げた。


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