永劫回帰
「はるかがアニメなんて、珍しい」
「うん。この間ほたると一緒に見ていてね。少し気になったんだ、コイツが」
 そういってはるかが指差したのは、だみ声の黒と紫の生き物だった。
「敵なの?その割には随分と可愛らしいわね」
「子供向けのアニメだからね。でも、哀しい宿命に彼は気付いているのかな」
 はるかはそう言うと顔を歪め、テレビを消した。私をソファへと引き寄せ、強引に唇を重ねてくる。
「ちょっとはるか。ここだといつほたるが来るか……」
「少しの間だけだから。こうさせていてくれ」
 私が上になるようにはるかはソファに横になると強く私を抱きしめた。はるかの手が何かの恐怖を紛らわせるように力強くて、私は咽そうになった。きっと、下にいるはるかは私の体重も加わるから余計に苦しいとだろうと思うけど、私にはそれが見えなかった。はるかの頬は私の頬に触れている。
「ねぇ、みちる。僕たちが転生したのはこの地球に危機が迫ってきていたからなんだ」
「知ってるわ。そして私達はそれを回避した」
「じゃあ、僕たちの存在意義はなくなってしまったのかな」
「――え?」
 はるかの手が緩んだので、私は体を起こしてその顔を覗きこんだ。もう自分の腕の圧力も私の体重もかかっていないはずなのに、はるかは苦しげな表情を浮かべていた。
「さっきのアニメを見ていたときに、ほたるから聞いたんだ。彼、さっきの敵だけど、彼は正義の味方が地球に生まれた瞬間に、そいつを倒すために生まれたらしい」
「それが、私達と同じだってはるかは言いたいの?」
「彼がもし、その正義の味方を倒してしまったら。番組上有り得ないことだろうけど、もしそんなことがあったとしたら、彼はその後どうするのかな」
 彼は、とはるかは言っているけれど、それは自分への問いかけなのだと私は思った。
 地球に迫ってきていた危機を救った後、私達はどうなってしまうのか。元々、使命を理由に集まった4人。今は一緒に暮らしているけれど、もうその理由は無い。だけど。
「はるか。戦士の役目を終えた私達は、人としての役目を全うするだけよ。倖せに生きるという役目を。そのために私達は今も一緒に暮らしているんでしょう?」
 柔らかい前髪をかきあげ、あやすように額に唇を落とす。けれど、はるかは苦い顔を緩めることは無かった。
「そう思いたいけど。本当にそうなのかは分からないさ。僕たちが敵を倒した今もこうして離れずに生活しているのは、また近いうちに何かが迫ってきているのを無意識に感じとっているからなのかもしれない。そして現世での総ての使命を全うした時、次に来るべき時に転生するため僕たちはきっと――」
 はるかの言葉を最後まで聞きたくなくて、私はその口を自分の口で塞いだ。
 再びはるかの手が私の背に触れたけど、今度は抱きしめるというよりしがみつくという表現の方が正しいと思われるものだった。
「だとしたら、はるか。来世でも出会えるということよ。そしてまた、きっと恋に落ちる。何度でも。何度でも……」
「だけどそれは果たして倖せなのかな。別れが分かっている出会いなんて」
「普通の人として生きていてもやがて死は訪れるわ。私は、束の間でも貴女との間に倖せを感じられるならそれで充分よ」
 そう。例えこの倖せがいつまでも続かないものだとしても、今この瞬間に貴女に触れていられるだけで私は充たされる。ねぇ。はるかだってそうじゃないの?
「みちるは、欲が無いんだな。生憎僕は強欲だから。もっと永い時間、君を手にしていたいんだよ。来世なんて待っていられない。一時たりとも離れていたくないんだ」
 背にあったはるかの手が滑り、私の頬に触れる。唇を重ねると、はるかの手は先を促すように私の体を弄ってきた。
「飽きるわ、そんなの」
「どうせそんなの使命に邪魔されて完全には充たされないんだ。飽きることはないさ。そうだろ?それに」
「んっ」
「君に対して飽きるだなんて。それは強欲というより見る目が無いだけだ。みちる……」
 はるかの女性にしては大きな手に、頭の片隅でそろそろほたるが帰ってくる頃だと思ったけれど。もう次の瞬間にはその考えは何処かへ遠のき、私ははるかが与えてくる熱に体を預けていた。地球の危機がこの先幾度も起こればいいのに、と不謹慎なことを思いながら。


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