おとしもの
 手袋を片方無くした。


 寒いと彼女が身体を寄せてくるから、僕は右手の手袋を外した。
 僕の意図を読み取った彼女も片方だけ手袋を脱ぐ。
 絡めた指は、僕の右ポケットへ。
 そして用済みの僕の手袋は左ポケット。
 それをどこかで落としたらしい。
 多分あまりにも彼女の体温が自然で。
 僕は脱いだ手袋の存在を忘れていたのだと思う。
 どこで落としたのか、見当もつかない。
 だけど。
 探すと聞かれた僕は首を振った。
 買いに行くと聞かれても同じ。

「君の左手があれば充分だよ」

 笑って言う僕に彼女は。
 ポケットの中の手を強く握り返しては、もう、と赤い顔で呟いた。


 それから数日が経ち。
 気付いたから彼女も手袋を片方、手袋を無くしてしまっていた。


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