「ねぇ、はるか。何か欲しいもの、ない?」
 唐突に、みちるが言った。
 その距離が近かったので、はるかは特に考えもせずに手を伸ばすと、みちるの頬に触れた。唇をそっと重ねる。
「今、貰った」
「……もう。バカね」
 はるかの甘い言動に顔を赤らめながら言うと、みちるは少しだけ距離をとった。なんだよ、と心底残念そうなはるかの呟きに、思わず笑ってしまう。
「そうじゃないわ」
「じゃあ、コーヒーをもらおうかな。ブラックで」
「それも違うわ。コーヒーは淹れるけれど」
「ったく。何なんだよ、一体」
 キッチンに向かうみちるの後ろ姿に、はるかが再び呟く。そのことにみちるもまた笑うと、キッチンカウンタにミルを置いた。ガリガリと音を立てて豆を挽く。
「はるかもうすぐ、誕生日でしょう?」
「なんだ。それでか」
 遅れてキッチンに立ったはるかは、背後から手を伸ばしてみちるのそれと重ねた。みちるが振り返るよりも先に、空いていた左手でその体を抱きしめる。
「ちょっと、はるか。苦しいわ」
「君からは、何も要らないよ。僕は、欲しいものは自分で手に入れるタイプだから」
「欲しいもの?」
「そう。欲しいもの。例えば……」
 言葉を切り、右手でみちるの顎を掴む。そうして先程より少しだけ長いキスをすると、はるかは微笑った。
「君、とか」
 甘く囁いて、再び唇を寄せる。
「それはどうかしら」
「えっ?」
 しかしそれは、触れ合う直前に出されたみちるの言葉によって阻止されてしまった。
「ねぇ、はるか」
 戸惑うはるかに、みちるは自分の意思で振り向くと、意味深に微笑んだ。そして、はるかに負けないくらいの甘い声で、そっと囁いた。
「何か欲しいもの、ない?」


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