WARM
「ただいまーっと」
 他の二人より先にマンションへと辿り着いた星野は、誰も居ない部屋に呟くとコートを脱いでリビングの灯りを点けた。吐き出した息が、白く色づく。
「寒っ」
 外と大して変わらない寒さに星野は身震いをしたが、暫く考えた後で灯りを消した。暖房器具もそのままに、正面に設けられている大きな出窓に立つ。カーテンを開けると、星と見間違うほどの夜景が広がっている。
 星野はそれを見下ろしながら窓辺に腰を下ろした。窓を開け、入り込んでくる冷気に身を震わせながら、今度は空へと視線を移す。
 地上の光に埋もれて星は殆ど見えなかったが、満月だけはその存在を強く放っていた。
「おだんご」

 どれくらい、そうして月を眺めていただろうか。星野の手の感覚がなくなる頃、突然星野を蛍光灯の明かりが照らした。
「星野。帰ってるなら灯りくらいつけてください」
「そうだよ。それに何、この部屋。寒っ。ていうか、窓開いてんじゃん。バカじゃないの?」
 振り向いて目を細めた星野に、二人が口々に言う。
「お帰り」
「お帰りじゃないよ、ったく」
 乱暴にコートを脱いだ夜天が、部屋の暖房器具といえるものを片端から点けていく。そうしてようやくソファに座ると、タイミングよく大気が運んできたコーヒーに口をつけた。
「ていうか星野、窓、閉めてよ」
「何でだよ」
「寒いからに決まってんじゃん」
「そうですよ、星野。エコロジーのキャンペーンに参加したばかりなんですから」
 はい、と大気は星野にコーヒーを手渡すと、その手で窓とカーテンを閉めた。
「何で閉めるんだよ」
「カーテンを閉めたほうが外に熱が漏れないんですよ」
「この間、自分で説明したばっかじゃん」
「エコロジー、ね」
 湯気をたてているコーヒーを飲み、ぼんやりと呟くと、星野は大気の閉めたカーテンを開けた。
「だーかーら。星野、大気の言ってたこと聞いてた?」
「エコだろ?だったら、この方が。オレには、あったかいんだよ」
 声を荒げる夜天にさらりと言うと、星野は窓越しに満月を見つめた。あたたかい光が、再び星野を照らす。
「月、ですか」
「なるほど。そういうことね」
 呆れるほどに優しい表情で満月を見上げている星野に、二人は囁き合うと同時に白い溜息を吐いた。


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