いちごミルク
 屋上の扉を開けると、手すりに肘をのせ、風の行先を探すかのように遠くを見つめている横顔を見つけた。
「はるか」
 いつも話している声よりも小さな声で、そっと呼んでみる。当然、はるかは振り向かない。私も、振り向いて欲しくはなかった。それでも呼ばずにはいられないなんて、矛盾しているとは思うのだけれど。
 何を思っているの? 痛みさえ感じるような目に、声には出さず問いかけてみる。
 このまま、気付くまで静かに待っていようかしら。ふと、そんな考えが浮かんだ。例え予鈴が鳴るまではるかが気付かなかったとしても、私ははるかを見ていられればそれだけで満足なのだし。
 しかしそれも束の間、はるかの手の中にある物を見つけた私は、小さくだけれど笑い声をもらしてしまった。気付いたはるかが、ゆっくりと振り向く。さっき私が呼んだ時は、気付かなかったのに。
「みちる……。いつから?」
「はるか。何を飲んでいるの?」
 はるかの言葉を無視して隣に並ぶと、私は訊いた。ああ、これ? と、手の中にある紙パックを私に差し出す。
「飲んでみる?」
「え?」
「えっ?」
「だってそれって――」
 屈託のない笑顔と紙パックから飛び出ているストローを交互に見つめながら、私は自分の顔が熱を帯びていくのを感じた。こんなこと、今更なのに。そう思いながらも、一度頭に浮かべてしまった言葉は、なかなか消えてくれない。
「な、んだよ。そんなの、今更だろ?」
 私が考えていることを読んだのか、はるかは言うと、けれども私に差し出していた紙パックを自分の口元へと戻した。その頬は、少しだけ、赤い。
 二人の間に、妙な気恥ずかしさが漂う。それでも私は、何故かストローを咥えているはるかの口元を見つめていた。本当に、こんなこと今更なのに。それでも、見つめるはるかの唇に、今はどうしても胸が高鳴ってしまう。
 バカみたい。心の中で呟いて、バカみたいに青い空へと視線を向けようとした、その時だった。
 ストローから離れたはるかの口元が、僅かに吊りあがった。みちる、と名を呼ばれ視線を上げた私と目を合わせると、まだ頬を赤くさせたまま、それでもはるかは意地悪く笑った。
「じゃあさ。直接、だったら。飲んでくれるのかな?」
「――え?」


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