Heat of the Night
 走る痛みに、体を離す。どうしたのと目で問いかける彼女に、僕は苦笑した。
「舌、切った」
「……見せて」
 彼女は言うと、僕の返事を聞かず顎を掴んで傾けた。間が抜けた画だと思いながらも、仕方がなく舌を出して見せると、彼女の舌が触れた。
 確か僕は、見せて、と言われたと思ったんだけどな。
 彼女の舌をぼんやりと受けながら、思う。そういえば、以前にもこんな事があったな。あの時は、舌じゃなく、手だったけれど。
「はるかの味ね」
「いやらしいな、その言い方」
「だって、そういうつもりで言ったんですもの」
 くすくすと笑いながら、僕の肩に両腕を乗せる。見つめては意味深に目を細める彼女に僕も微笑い返すと、けれどその唇には触れなかった。通り過ぎ、僕の舌を傷つけたモノを食む。
「ピアス、外してくれないか?」
「どうして?」
「……君は、僕を傷つけたいのかな」
「それならこんなこと、しなければいいだけの話じゃない」
 肩の乗っていた彼女の手が、僕の胸を押しやる。耳に触れられるのは嫌いじゃないはずなのだけれど。いいや、嫌いじゃないから、なのかもしれない。
「僕が、舌を切るからってこういうこと、止めると思うかい?」
「それは……」
「だったら、没収」
 手を持ち上げ、彼女の両耳のピアスを外す。異物のなくなった耳朶を口に含むと、ピアスホールの硬さを感じた。
「ピアスは、僕が大切に預かっておくよ」
「それって、いつも外しておけってこと?」
「当たり前だろ」
「どうしてよ」
「不意打ち、出来ないと困るだろ?」
 囁いて、息を吹きかける。息を詰めて身を捩る彼女の後頭部を捕まえると、今度こそ唇を重ねた。
「……まだ、味が残ってるわね」
「血が出てるかどうか、見てみるかい? ちゃんと、その目で」
「バカ。見なくても、こうしていれば分かるわ」
 舌を出して見せる僕に、彼女は再び肩に両腕を乗せると、微笑いながら僕と同じように舌を出した。


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送