あきついり
 雨が上がった。夏の雨上がりは蒸し暑いけれど、秋のそれは肌寒い。
 開け放った窓から吹き込んでくる風に身震いをしながら、特別棟の屋上に見慣れた姿を見つけた私は、溜息を吐いて教室を後にした。

「折角衣替えしたのに。そんな恰好じゃ風邪をひくわ」
 柵に上着をかけて雲の切れ間から覗く太陽を見つめる横顔に、そっと話しかける。
「僕は暑がりなんだよ」
「嘘。寒がりなくせに」
「暑がりでもあり、寒がりでもあるんだ。知らなかった?」
「……ワガママね」
 はるかの隣に立ち、同じように柵に両肘を乗せて寄りかかる。だけど私は空を眺めることはしなかった。
「何?」
「本当は、寒いんでしょう?」
 風にさらわれる髪を耳にかけ、分かるように視線を動かして、自分の両腕を掴んでいるはるかの手を見つめた。その指先は、篭められた力のせいで僅かに白くなっている。
「風邪をひくわ」
「さっきも聞いた」
「でも伝わってないわ。……私は、貴女みたいに体を温めてあげることが出来ないの」
 手を伸ばし、はるかのそれに重ねる。思ったとおり、伝わってくる体温は冷たい。
「別に僕の真似をする必要はないさ。それに。……こうしてると、君だけじゃなく僕だって温かくなれるんだ」
 こうしてると、と言ったはるかは、私の後ろの回りこむと包み込むようにして抱きしめてきた。耳元に、はるかの呼吸を感じる。
「背中」
「気にならないさ。今、僕の神経は、君と触れ合っているところに注がれてるからね」
 そう言いながらも、強く吹いた風に、更に体を密着させてくる。
「バカね」
 これで風邪をひいても知らなくてよ。
 そう思いながらも、私は腕から抜け出すことをせず、回された手にそっと自分の手を重ねた。

 見上げた空には、もう鈍色しか広がっていなかった。


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