眠り方を、忘れた。今までずっと隣に誰かがいたせいだろう。
 ずっと。とはいってみたものの、まだ数ヶ月程度でしかない。それなのに、ずっと、と思えるほどにまで気が付けば馴染んでいた。
 二人では少し狭いと感じていたベッドが今、こんなにも広い。
 ベッドにもぐりこんでから、もう長いこと寝返りを繰り返している。目覚める時に1人であることはよくあるけれど、寝入る時に1人ということは思い返す限り、ない。
 どんな姿勢で寝てたかな。仰向けになってみても、横を向いてみても、うつ伏せになってみても、どれもしっくりとこない。
 温もりだって。決して僕が風邪をこじらせているからというだけじゃなく。自分1人の温もりしか存在していない毛布の中は、こんなにも寒い。
「はるか。もう寝たかしら……?」
 いつの間に入ってきたのだろうか。しんとした部屋に優しい声が響いて、僕は寝返りをうった。半分だけの視界の先に、求めていた姿がある。
「みちる」
「どうしたの、そんな甘えた顔して。はい、薬」
「口移しで飲ませてもらいたいところだけど、そんなことしたら、風邪うつるよな」
「そうね。今は我慢して」
 クスクスと笑いながらサイドテーブルに用意した水と薬を置く。その手を掴んで引き寄せたい衝動に駆られたけれど、何とかそれをやり過ごすと体を起こして薬を飲んだ。
 溜息を吐いて、みちるを見る。何が可笑しいのか、立ったまま僕を見つめるみちるは、口元に手をあててクスクスと笑っていた。
「何だよ」
「子供みたい」
「法的にはまだ子供だ」
「可愛いのね、はるかって」
 会話になってないな。
 まだ笑い続けるみちるを無視して、ベッドに横たわる。むくれた顔を見られると余計に笑われると思い、毛布を頭まで被ってみたけれど、相変わらずみちるの笑い声は止まなかった。
 毛布越しに、頭を優しく叩かれる。寝付けない子供を、あやすように。
「眠れるまでこうしているわ」
「風邪、うつってもしらないぜ?」
「二人して風邪を引いたら、一緒に眠れるわ」
 目元まで毛布を下げた僕と目を合わせ、みちるが微笑む。冗談とも本気とも分からない表情に、けれど僕は何故だか安心した。少しだけ、瞼が重くなってくる。薬が効いたのか、それとも……。
「おやすみなさい、はるか」
「おやすみ、みちる」
 柔らかい声。髪を撫でる感触に抗いがたい眠気を感じた僕は、思っていたよりも容易く眠りについた


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