出直す |
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合鍵を使ってアトリエを兼ねたマンションに入る。玄関を開けたその光景に違和感を覚えたが、構わず廊下を進んだ。 リビングへ続く短い廊下。ノブに手を伸ばした時、ドアの向こうから知らない声が聴こえた。そういえば、と、今更気付く違和感の正体。見慣れない靴が、そこにはあったと。 出直すべきか。それとも、このなんともいえない気持ちを解消するためにドアを開けるか。ただ、開けたところで解消されるとは限らないが。 ……帰るか。事情を聞くにしても、二人きりの時でいいだろう。それに、何かあったとして、ただの同士である僕にそれを咎める権利はない。 中途半端に浮かせていた手を下ろし、踵を返す。その時、部屋の中から僕を呼ぶ声が聴こえた。時間をおかず、ドアが開く。 「そんなところにいないで、入ってきたら?」 「……取り込み中みたいだったからさ。邪魔しちゃ悪いだろ」 馬鹿みたいだ。そんな風に思った。声が明らかに不貞腐れているし、みちると目を合わせることも出来ない。そのくせ、中にいる奴が気になって仕方がない。これじゃまるで……。まるで、妬いてるみたいだ。 「ちょうど打ち合わせが終わったところよ」 「……打ち合わせ?」 「個展をまた開くの。言ってなかったかしら? 実際に展示する絵をどれにしようかと話し合っていたところなのよ」 紹介するわ。僕の手を引いて部屋に戻った彼女は、ソファに座って資料をまとめていた男を紹介した。僕のことはなんて紹介するのだろう。そう思っていると、特にみちるは何も言わなかった。ただ、男は何かを理解したかのように僕に微笑み、手を差し出した。仕方なく、握手を交わす。 「それでは、私はこれで失礼します。みちるさん、では、また」 「ええ」 軽く会釈をし、男は颯爽と部屋を後にする。見送りに出るのかと思っていたが、みちるは僕の隣に並んだまま、動こうとしなかった。 「……鍵、閉めなくても?」 「何かあったら、守ってくれるんでしょう?」 何が可笑しいのか。まぁ、僕の態度が可笑しいのだろうけど。口元に手を当ててクスクスと笑うと、みちるはキッチンへと向かった。何かと尋ねる前に、コーヒーの香りが漂ってくる。 「みちる。僕は」 「合鍵。渡した意味、もうちょっと考えてくだらさらない?」 テーブルにコーヒーを置き座るよう促すと、みちるは悪戯っぽい目で僕を見つめ、また笑った。 |
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