うつ伏せて眠る。それが不満だと彼女は言った。
 どうしてと訊いても答えてはくれない。
 大丈夫。腕枕、して欲しいなら、その時は仰向けになるから。
 からかうように言ってはみたけれど、どうもそれも不満だったらしく。知らない、と顔をそむけられた。
 手を伸ばし、彼女の顎を掴んでは見つめさせる。
 おやすみのキスを額に落として隣に寝転ぶと、まだ不満げな表情で、それでも彼女は体ごと僕を見た。
 細い指が、僕の顎を掴む。
「おやすみなさい、はるか」
 感情を煽るようなキスの後、彼女は意地の悪い微笑みを見せると、僕に背を向けるように寝返りをうった。
 眠れるわけ、ないだろう。
 呼びかけてみるけれど、反応がない。本当に眠ってしまったのか、それとも、無視を決め込んでいるのか。
 表情を見たくて、僅かに体を起こしてみる。覗き込んでみようかと思ったけれど、僕の手は彼女の肩を掴んでいた。強引に、仰向けにする。
「みちる」
「おやすみなさい」
 目を合わせた彼女が、何故か勝ち誇ったように微笑むから。僕は何も言えず、浮かせた体を元に戻した。
 彼女の寝顔を見てやろうと、向きを調節する。すると、彼女ももぞもぞと向きを変えてきて。
 目を開けはしなかったけれど、微笑んだその口元に、僕は今までの自分を省みて、苦笑した。


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