可哀相
 可哀相。
 眉間に皺を寄せたまま眠る横顔に思う。
 言葉にすれば通じ合えるはずの想いを、いつまでもすれ違わせたままいることに対してじゃなく。一人でいる程にも、誰かを頼る程にも強くないことを。可哀相だと。
 性欲が先行してオレの所に来た時はまるであざ笑っているかのように聞こえる嬌声も、今日みたいに何かを誤魔化すためだと泣き声にしか聞こえなくて。思わず耳を塞ぎたくなる。
 なのにそういう時に限って、奴はオレを深く飲み込んでなかなか解放してくれない。
 だったら少しくらい頼れよ。そう言いたくなる。触れ合っても、結局一人だなんて。
 体だけの関係。まるで安っぽいドラマみたいだと思ったけど、考えてみれば脇役だってもう少し関係に何かしらの変化はある。それに、安っぽければ安っぽいほど、展開は目まぐるしい。
 それなのに、オレ達は。三人とも……。
「可哀相な奴だ」
 このドラマを少しでも視聴率(すうじ)の取れるものにするのなら、関係に何かしらの変化を与えるべきなんだろうけど。それは、オレがどうこうできることじゃない。
 例え今ここでオレが、本心をこいつに告げたとしても、きっとその言葉はなかったことにされるだけなんだろうし。
「……可哀相なのは、お前だろ」
 髪に触れた手が振り払われ、眠っていたはずの奴の目が開く。気だるそうな視線をオレに向けたまま身を捩ると、口元を歪めて笑った。
「永遠の片想いなんて」
「それはお前だって同じだろ」
「僕は繋げてないだけだ。お前とは違う」
 自分と同じ想いを抱いていると分かっていて見ないフリをするほうが、余程つらいと思うけど。
「まぁ、でも、そうかもな」
 考えてみれば、オレのほうが、こいつより可哀相なのかもしれない。だって。
「そうだ。だからお前は、うちのお姫様のことなんかさっさと諦めて、次の恋でも始めるんだな」
「…………」
「何だよ?」
「何でもねぇよ」
 分かってない。何も。
 オレはもうとっくにあいつことなんて諦めてるし、新しい恋だってもう始まってる。けど。
 それすらも永遠の片想いにしかならないなんて。
「ほんとに、可哀相」
 すぐ傍にいるのに、伝えられないオレも。それに気付こうともしないこいつも。きっと、総てを知ってるのに知らないフリをしているあの人も。
「五月蝿いな。お前に同情されたくは無い」
「同情なんかしてねぇよ。ただ、このままじゃ数字が取れないと思っただけだ」
「は?」
 聞き返す奴に首を振り、唇を重ねる。いつもならオレからの誘いにはのってこないのに、今日は相当凹んでいるのか容易く舌を絡めてきた。
 混ざり合う熱に、可哀相、とまた思う。
 それが、誰に向けた言葉なのか。自分でも分からないけど。ただ、可哀相、と。その言葉だけがいつまでもオレの頭の中を巡り続けていた。


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