non title 8
 はるかが通信販売でヘンなものを買ってきた。
 はるかに言わせれば画期的なものらしいのだけれど、私にはどうしてそれをはるかが欲しがったのかが分からない。相互に作用するのならまだしも、はるかが購入したものは私にしか作用しないもので。
「いいんだよ、僕は。君の表情(かお)を見れるだけで」
「それなら尚更、必要ないじゃない」
 今まで一度だって、その瞬間を見逃したことが無いくせに。呟く私に、はるかは不思議そうな顔をした。
「なによ」
「いや。ていうか、みちる、知ってるんだなと思って」
「えっ」
「コレ。僕は、ネット見てて偶然見つけたんだけど。もしかして、望んでたりとか」
「それは」
 言い淀む私を、愉しげな目が見つめる。からかわれてるんだわ。気付いたけれど、徐々に熱くなる自分の頬の色は隠せそうに無かった。
 顔を背けた私の顎を、はるかの長い指が捉えて引き戻す。
「何でもいいさ。折角買ったんだし、今日はコレ付けてしてみようぜ」
「でも」
「食わず嫌いは良くないって、みちる、よく言ってるだろ。それに、案外良いかもしれないぜ」
 私の体を押し倒し近づいてくる距離を、両手で塞き止める。なんだよ。不満げな声を上げたけれど、はるかは素直に体重をかけるのをやめてくれた。ただ、それ以上距離を空けることもしてくれなかったけれど。
「理由を聞かせて」
「何」
「はるかが、コレを買った理由。私は嫌なの。例え操っているのがはるかだとしても、コレははるかじゃないわ。私ははるかを感じたいの」
「僕で、感じたい。の、間違いじゃないかな」
「もうっ」
「僕は、さ」
 言いかけたはるかの手が、その胸を押さえ続けていた私の両手をベッドへと押し付ける。一気に零まで縮められた距離に身悶えると、離さないとでもいうように指先を絡めてきた。と同時にはるかの膝が刺激を与えてきて、私は息を詰まらせた。
「この手を、離したくない。それだけなんだ」
 真顔で告げるはるかに見惚れる間もなく、刺激が与えられ、私もはるかの手を強く握りしめた。満足げに、はるかの口元が歪んでいく。
「みちるだって、握りしめるならシーツより僕の手のほうがいいだろ」
 それはそうだけれど。思わず頷きそうになった首を、なんとか傾ける。握り返したことで油断をしていたはるかの手をすり抜け、うなじを掴む。左手は、その背に。
「こうすればいいだけの話だわ」
「爪、結構痛いんだけどね。たまに跡になってることもあるし」
「はるかが私に印をつけるのと同じだと思えばいいじゃない」
「……で。僕の手は何を掴んだらいいのかな」
 私の顔の両脇でただ体重をかけているだけの、はるかの手。見つめていると、また捉まってしまいたくなる衝動に駆られるから。
「アレ以外なら、シーツでも、私でも、なんでも」
 サイドテーブルに置かれたままになっている玩具を一瞥し、口づける。
「ちぇ。それじゃ何も変わらないじゃないか」
 離れた唇から溜息を漏らしながら。それでも、はるかは口元を綻ばせると、手にする何かを探すように私の体に触れてきた。


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