Secret Kiss
 どうりで静かになったと思ったら、いつの間にか眠ってしまったらしい。ソファに仰向けになっている彼女の胸の上には、広げたままの文庫がのっている。その本を、少し羨ましいと思う私は、きっとどうかしてる。
「はるか……」
 ソファの隣にしゃがみこみ、囁くように名前を呼ぶ。すると、彼女の唇が僅かに動いた。音の無い言葉は、自分勝手な想像だと分かっていても、私の名を象ったようにも思えて。
 指先で、そっと撫でてみる。変化を見せない唇に、戦闘時以上に鼓動を高鳴らせながらも、そっと唇を重ねた。一瞬の、触れたかどうかも分からないほどのキス。それでも、僅かな感触と温もりは私の脳に届き、忘れまいと目を瞑って必死に反芻した。
 馬鹿ね、私。目を開けて、苦笑する。そでもしっかりと記憶には刻み付けてあるのだから、始末に終えない。
 いつか彼女が誰かとキスを交わしたとき、それがファーストキスだと思うだろうか。いつか私が誰かとキスを交わしたとき、それがファーストキスだと彼女は思うだろうか。
 そんな日が、来なければいいと思う。いや、たった一つだけ、その勘違いが同時に起こるのなら。
 今日の話を、私を見つめてはにかんだように微笑む貴女に、してあげたいと思う。本当は、もっと、ずっと前に。貴女の知らないところで私が奪い、捧げていたことを――。


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