指切り
「どうしていつもそんな無茶な戦い方をするの? 貴女なら、全力を出さなくても倒せたはずなのに」
 彼女は無傷だと言うのに。私の応援に駆けつけてくれたはずなのに。どうしても、口調がきつくなる。
 肩で息をしていた彼女は、一度大きく深呼吸をすると空を仰いだ。それから、ゆっくりと私を見る。
「星が本当に輝くのは。消滅するその瞬間なんだ」
「自分が星だと言いたいの?」
「実際そうだろ」
 口元を歪めて笑い、再び空を眺める。焦がれるようなその目が気になり、彼女の視線を追いかけると、そこには銀色に輝く星があった。
「あの光は、単なる反射よ」
「プリンセスは国民がいるからこそプリンセスなんだよ。彼女はそれでいいんだ」
 でも僕は違う。呟く彼女に、一体何が違うというのかと訊きたくなる。貴女だって、使命があるからこそ戦士として輝いているのに。
 それ以上に輝いて。貴女は、それで。
「一体誰に見つけてもらおうというの?」
「――え?」
 思わず零れた言葉。誤魔化そうかとも思ったけれど、小さく息を吐くと、彼女を見つめ返した。
「そうやって放たれた最期の輝きが。誰かの元に届く頃には、貴女はもう何処にもいないのよ」
 それに。呟いて、彼女の手をとる。グローブ越しに伝わる体温がもどかしく、背伸びをすると直に彼女の温もりに触れた。
「私は、貴女を見つけたわ。貴女の望む輝きではないけれど。反射だったとしても。それでも、私は見つけたのよ」
 それは私に向けた輝きではないことは分かっている。私が彼女の存在を知ったところで、それが彼女の生き方に彩を添えないことも。痛いくらいに分かってる。だけど。
「ネプチューン。……君は、優しいんだな」
「違うわ、ウラヌス。私は優しくなんかない」
 小さく頭を振る私に、彼女は困ったように微笑むと、あやすように唇を重ねた。私を抱きしめ、ありがとう、と囁く。
 分かってないわ。そう思いながらも、彼女の背に腕を回し、温もりを自分の体に押し付ける。
 もし。輝くことで、存在に気付いてもらえるのなら。それが、叶うのなら。私も彼女と同じような行動をとるのだろうかと、考えてみる。
 答えは、ノー。私は、例え気付いてもらえないのだとしても、想い人の傍にいたい。傍にいられないのなら、せめて、同じ時代を生きていたい。一秒でも、長く。
 だから。
「ウラヌス」
 お願いだから、これ以上、生命を燃やすようなことはやめて。そんな輝きなんて、私は見たくない。誰かのためでも、私のためでも。
「これからだって。私は、見つけるわ。必ず。どんな小さな輝きでも。ううん、輝いていなかったとしても。目を凝らして、貴女をこの広大な宇宙から。ねぇ。それじゃあ、駄目?」
 私では、やっぱり。足りない?
 手を緩め、彼女の顔を覗きこむ。私の想いが、どれだけ伝わっているか分からない。それが曲げられることなく伝わっているのかも。
「ネプチューン。じゃあ、約束だ」
「えっ?」
「もし、生まれ変わることがあったら。その時は。必ず、僕を見つけてくれ」
 優しく微笑んで、グローブを脱いだ小指を出す。私が望んでいるのは、転生してからの話ではないのに。
 そのままには伝わらない想い。返ってくる想いも、私の欲しいものではない。だけど。
「分かったわ。約束よ」
 どんな種類であれ、彼女からの想われていることには違いがないのだと、自分に言い聞かせて。私は指を絡めた。
 触れる温もりの中に、自分の、身勝手な想いも織り交ぜて。

 そして――。

「約束。ちゃんと守ったわよ、ウラヌス」
「えっ?」
「なんでもないわ。行きましょう、はるか」
 小指を絡め、歩き出す。すると、すぐに手のひらを合わせるように彼女の指が滑りこんできて。
 私たちはどちらともなく顔を見合わせると、約束通り、今度こそ、同じ想いで微笑んだ。


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