献花
 野草を手折り、小さな花束にしていた。それをどうするのか、気づかれないように後をつける。たどり着いたのは、森林公園。
 舗装された道から逸れ、奥まった所にある老木の根本に花を置く。無言で立ち尽くす彼女の表情は見えないけれど、僅かながらその肩が落ちているのは分かった。
 ああ、そうだわ。どうりで見覚えがあると思った。
 そこは二日前私たちが、いや、彼女がダイモーンを倒した場所。同時に、それまで人間に植え付けていた種子が、人間以外のものに使われた戦いでもあった。花を添えられた木が傷んでいるのは、彼女の攻撃の余波を受けたから。
 技を放つその刹那、彼女は逡巡した。ダイモーンが発生する瞬間は目撃していて、人間との融合ではないと知っていたにも関わらず。
 しかし、結局彼女はダイモーンを倒した。いいやきっと、彼女の中では『殺した』という言葉に置き換えられている。だから、花を……。
 人間との融合の場合、ある程度のダメージを与えればそれは人間と種子へと分離する。その際ダメージは総て種子へと受け継がれ、人間は無傷で済む。それは今回も同じだった。融合した電化製品は無傷であり、ダメージを負った種子は消滅した。
 元に戻った。ただ、それだけなのに。
 電化製品には受け継がれなかったダイモーンの人格を魂と置き換えて、彼女は今、こんなにも苦しんでいる。
 ――はるかは優しすぎるのよ。
 度々口にする自分の言葉が蘇り、顔が歪む。
 優しすぎる。戦士には向かないほどに。そんなこと、分かり切っていたのに。私はどうしてあの人を巻き込んでしまったのだろう。
 ごめんなさい。
 言葉が漏れそうになり、慌てて口を塞ぐ。背後の彼女に気づかれないよう中止しながら、寄りかかるようにして根本にしゃがみ込む。
 謝っても戻れないことは分かっている。彼女がそれを望んでいないことも。だからこそ、こんなにも胸が痛い。
 はるか。はるかっ。
 俯く背中を今すぐにでも抱きしめたい。けれど、この感情は彼女のためだけじゃなく自分のためでもあるから、どうしても動くことが出来ない。
 ごめんなさい。私。貴女を……。
 立ち去ることすら出来ずに、彼女の名前とごめんなさいだけを、ただひたすらに心の中で繰り返す。卑怯だと理解しながらも、彼女がこの場から立ち去るまで。それは延々……。


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