family
「何か視線を感じるのだけれど」
「それはそうよ。ほら見て、あの寝顔。誰だって見惚れてしまうわ」
 目を細めクスリと小さく笑みをこぼす。そんなみちるの横顔を見つめていると、私の視線に気づいた彼女が同じ表情のまま指先を絡めてきた。驚く私に、またクスリと笑う。
「いいじゃない、たまには。だって、家族だもの」

 友達が電車に乗って家族で出掛けたという話を聞いたほたるが、自分も電車に乗りたいと言い出したのは、連休明けの火曜の夜だった。
 それまでほたるは電車に乗ったことはなかった。再生をする前は分からないけれど、少なくとも再生して私たちと暮らすようになってからは、一度もない。遠出する時は必ずはるかが車を出した。それは旅行に限ったことではなく、送迎だけでも。
 だから、突然のほたるの申し出にはるかは当初難色を示していた。けれど、これからのことを考えなければという私の言葉に、はるかは何とか首を縦に振ってくれた。みちるが久しぶりに電車に乗りたいと言ったことも、多少効いていたらしい。
 渋々頷いたというのに、今日はるかが立てたプランは電車に乗ること自体が目的であるかのようなものだった。
 ほたるは初めて触れる世界に大いにはしゃぎ、そして今、ボックスシートで眠りについている。隣に座るはるかの手をしっかり繋いで、お互いに体を寄せ合わせて。

「それにしてもあの二人、こうして見るとなんだか姉妹みたいね」
 指を絡めたり離したり、いつもはるかにしているように私の手を弄びながら、みちるが言った。そうかしらと正面の二人の顔を眺めてみる。確かに似た雰囲気はあるけれどなどと考えていると、姉妹という言葉がじわじわと可笑しく響き、ついに私は吹き出してしまった。
「兄妹の間違いじゃないですか?」
「もう、せつな。……見た目は全然違うのに何処か共通したものを感じるわ。どうしてかしら。普段父娘に見えるのはそういう行動をしているからなのだと思っていたけれど」
 共通したもの。戦士だからという一言では片付けられないものは、確かに二人にはあった。お互いに傷つけあった過去を気遣っていうというのとも違う、もっとやわらかく温かい共通点。
 何処が似ているのだろう。もう一度二人を眺め、ふと繋いだ手に目が留まった。先ほどのみちるの言葉が、甦る。
「みちる。自分で言ったこと、もう忘れたんですか?」
「えっ?」
「家族だから、ですよ。家族が似ているのは当然でしょう」
 繋いだ自分の手を持ち上げて見せ、それから目の前の二人の手を顎で示す。私の視線を追いかけたみちるは、僅かな間だけで、すぐに納得したように口元を緩めてみせた。
「それじゃあ、私とあなたも似ているのかしら」
「そうかもしれませんよ。自分たちでは分からないだけで」
 繋いだ手を下ろし、視線を合わせて微笑み合う。
 いつもははるかが運転しているから、二人だけで会話をすることはあまりないけれど。こういうカタチも時々なら必要なのかもしれないと、みちるの温もりを右側に感じながら思った。


***


「みちるママとせつなママ寝ちゃってる」
「まぁあと2駅あるから、もう少しそっとしておこう」
「ねぇ、パパ。なんかみんなに見られてる気がするんだけど」
「そりゃあそうさ。あの二人の寝顔に見惚れない奴なんていないからね。それにしても」
「なぁに?」
「こうして見ると、姉妹みたいだな。姿は似ていないけど、でもどこか共通したものを感じるよ。不思議だよな」
「パパ知らないの?」
「ん?」
「家族って、だんだん似てくるんだよ」
「……なるほど」


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