6 そんなの無理…(はるみち)
「いいよ、僕は」
「どうして? いいじゃない、たまには。入れ替わってみるのも」
「そんな、の。無理だって」
 顔を近づけて懇願してくるみちるの頭を両手で挟み、90度ほど捻る。
 胸の前で合わせていた両手が下がり、支えている頭からも力が抜けたので諦めたのかと手を離すと、お返しと言わんばかりにみちるの両手が僕の頭を挟んだ。但し、僕の頭が捻られることはない。
 互いに真っ直ぐに見つめあったまま、微動だにしない。暫くそうしているうちにみちるの目が潤んできて、僕は視線をそらせたい気持ちで一杯になった。多分それは、単純に目が乾いたからなのだろうけれど。
「みちる」
「どうして無理なの? はるかだって、いつも私にしているだけじゃ物足りないでしょう?」
「別に僕は。君を満足させられれば充分だから」
「嘘」
 みちるの手が滑り、僕の肩にかかる。そのまま斜めに体重をかけられ、僕はソファに背を押し付けられながら、ずるずると倒された。
「抵抗しないのね。諦めた?」
「今回逃れたところで、どうせ君はまたしたいっていうんだろ?」
「当然じゃない」
「可笑しな話だな。どうして君のほうからいいだすんだか」
 みちるの足を軽く叩き体から下りてもらうと、僕はうつ伏せに寝直した。何故か楽しそうに微笑ったみちるが、再び僕の上に圧し掛かる。
「どうしてって。貴女に触れたいからに決まってるじゃない」
「触るだけなら別に」
「貴女の気持ちになって触れてみたいの」
「……何だか、別のことするみたいな言い方だな」
「それでもよくってよ?」
「それだけは、駄目だ」
「あら、残念」
 クスクスと微笑いながら、指先で僕の背中をなぞる。襲ってくる感覚に、堪えきれず吐息を漏らすと、本当に弱いのね、と耳元で囁かれた。
「だから嫌だって言ったんだ」
「でも、ほら。肩から背中にかけて、こんなに凝っているわ」
「分かったから。そうやって軽く撫でるのは止めてくれないかな。それはマッサージに関係ない動きだろ?」
「何言ってるのよ、はるかだっていつもこうしてるくせに」
「それはっ、だ、から。君がっ」
 スッと脇を撫でられ、笑い出しそうになる。震える肩を押さえつけるように、みちるの手が体重をかけてきた。
「私が、なあに?」
「……君が、喜ぶから」
 溜息混じりに、何とか言葉を吐き出す。次のみちるの動きが怖くて体を固めていたけれど、幾ら待っても肩に置かれた手は動き出しそうになかった。
「みちる?」
「もう、バカ」
「へっ? おい。あ。やめろって……」
 何を急に怒りだしたのか。問いただすよりも早くみちるの手が意地悪く動き出し、とうとう僕は堪えきれず、馬鹿みたいに声を上げて笑い出してしまった。


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