GAME? |
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「っん。な、ところで。見つかったらどうする気だ?」 「元々スリルを楽しむためのもんだって言ったのはお前だろ?」 「ルール違反だ」 「それはお前の方が先だ」 五月蝿い口を再び塞ぐ。一応人目にはつき難い場所ではあるけど、屋外であることには変わりなくて。それは完全なルール違反だったけど、オレはどうしてもそれを止められなかった。 「っめろ!」 だが。男と女といっても力ではどうしても奴には勝てないらしく。オレは思い切り突き飛ばされた。そんなに嫌がらなくてもいいんじゃねぇのと思うけど、まぁ、唇を噛み切られなかっただけマシと思うか。これでも、大事な商売道具なわけだし。 はぁ、と溜息を吐くフリをして呼吸を整える。見ると奴も壁にもたれて口元を拭いながら、その肩は上下していた。それは、オレを拒んだせいなのか、それともそれ以前の行為のせいなのかは分かんなかったけど。数分前の奴お得意の余裕面を崩せたことは、正直、嬉しい。 「偶然会うことがあれば。そういうルールだったはずだぜ?それなのに待ち伏せだなんて。……まさかお前、本気でオレに惚れたか?」 「冗談。僕が愛しているのはみちるだけさ」 「よく言う……」 少し、調子に乗りすぎたかもしれない。奴の目付きが鋭くなったことに思ったけど、気づいた時にはオレと奴の位置は入れ替わり、オレは噛み付くような口付けをされていた。 強く壁に押さえつけられている肩が痛む。 「ぉいおい。見つかったらやばいんだろ?」 息苦しさにようやく開放された口で、何とか反撃を試みたけど、別に、と呟いた奴にはもういつもの余裕の表情が戻っていた。 「ぱっと見はどうか知らないが。僕たちの関係はこの地球では自然なものだ。まぁ、アイドルであるお前には、その自然すら命取りかもしれないが」 笑いながらオレのネクタイを解こうと手を伸ばしてくる。 「それはお互い様だろ?お前だってみちるさんにバレたら……」 また、失言だったか。みちる、という言葉に奴の手は止まったが。それは本当に刹那で。次の瞬間には、何事も無かったかのようにするりとオレのタイを解いた。 「そうだな。みちるにバレて遊び相手が居なくなるのは困る。……お前の部屋でいいんだろ?」 タイと一緒に車のキーを掲げ、不敵に笑う。瞬間、脳裏に恐ろしく冷酷な笑みを見せたみちるさんの姿が浮かんだが、オレの思考を読んだ奴が、冗談だ、と笑うから。オレは少しだけ口を尖らせると、先に進む奴の後に続いた。 多分、これがこの地球での自然な形。けれどオレは、いや、オレ達はこの行為を繰り返しながらも、心身ともに違和感を覚えている。 理由は、考えるまでもないだろう。 お互い別の誰かを唯ひとり愛しながら、体を重ねてるんだから。 「こういうときくらい、少しは女らしくしたらどうだ?」 早々に息を整えると、奴はオレの胸に甘えることなくうつ伏せで窓の外を眺めていた。 「女らしく?知らないな。僕は僕らしくあるだけだ」 オレの言葉にようやく顔を向ける。けどそれはいつもの目であって、情事を終えた後の男女の関係の中で見せる目じゃない。 「想いを告げないのもお前らしいってか」 それがいい加減ムカついたから、また、地雷を踏んでしまった。 「……握りつぶされたいか?」 目付きが更にキツくなったかと思うと、探るように伸びてきた手が下肢に触れた。互いの体液で滑るそれを強く握りしめてくる。 「わーかった。わかった。降参だ。だから離せって。……使い物にならなくなったらお前だって困んだろ?」 「お前の代わりなら幾らでもいるさ」 決して大袈裟にしたわけじゃなく、本当に痛かったから目じりに涙が浮かんだ。そのことに満足したんだろう。奴は笑ってその手を口元まで持ってくるとどちらのと知れない体液を舐め取った。 思わず、奴を見つめるオレの喉が鳴る。 こいつに、お団子や他の奴に感じるような女を感じたことはないが。何か惹きつけるものがあるのは否めない。意味は色々だが。 「……か、わりがいるなら。オレじゃなくてもいーんじゃねぇの?」 ただ、オレだけがそれを思ってるのもムカつくから、また、悪態を吐く。 「僕には代わりは居るが。お前には居ないだろ?」 けど。やっぱりあっさりと返されちまった。傷の舐め合い。そういう意味ででも多少惹かれ合っていてくれれば。少しは可愛げがあるもんなんだけど。 「フザけんな。オレだってなぁ……」 「周りの奴らだって。まさか僕とこういう関係になってるとは想像もしないだろうから会えてるんだぜ?」 「……そりゃあ、まぁ」 そうだろう。一般には男嫌いの女好きで通っている天王はるかが。こんなアイドルと、というか、男と寝てるだなんて。誰だって思いやしない。だから二人きりで会っていてもメンバーはおろか、マネージャーだってなんにも言ってはこない。や。それは単にオレ達が会ってることに気づいていないだけかもだけど。 「それに。こうやってお前の性欲全部搾り取ってしまえば、みちるやうちのお姫様に手出しする気なんて起きなくなる」 綺麗にしたばかりの手を、再びそこへ伸ばしてくる。もうオレは疲れちてまってるってのに、コイツは……。体力だけじゃなく性欲も底なしなのか? 膝の間に潜り込みオレの頭を何とかもたげさせると、奴はオレの胸に手を置いてゆっくりと飲み込んできた。 滑らかに動く腰に。疲れていたオレはそのまま放って置こうかとも思ったけど。口でも体でもやられっぱなしなのはムカつくから。気だるい上半身を起こすと、目の前で上下する形の良い胸に噛み付いた。 「っ前。跡はつける、なよ」 「残さないように気をつけるさ」 どうせ瞬間の歯型がついたところで、朝には消えちまう。それに。 「つけたところで、誰に見せるわけでもねぇんだし」 「まさか」 オレの呟きに奴は笑うと、背中を丸めて肩に噛み付いてきた。瞬間の痛み。多分、僅かな歯型がついた程度だと思うけど。 「一応、商売道具なんだけど?」 「悪い。見た目でしか勝負できないアイドルだったっけな」 「てめっ」 「んっあ……」 予想外にオレが動いたからだろう。僅かに眉間に皺を寄せると、奴は小さく呻いた。その反応に思わず、へへ、と子供じみた笑みが零れる。 「っただろ?代わりは居るんだ。跡はつけるなよ」 オレの笑みになのかなんなのか。奴はそういうとオレの頭を掴んで自分の胸に押し付けてきた。伝う汗を舐め取ると、涙にも似た味がした。 興味がある、と言ったのはどっちだったか。今となっちゃもう思い出せない。 けど、その言葉をこういう関係にしたのはあいつ。それに応じちまったのはオレ。 どっちが悪いなんて言えないし、言う気もない。 だけど……。 すれ違う。街中で。 互いに隣には最愛の人を連れて。 オレ達は他人のフリをする。最初に気づくのはいつもお団子。そして奴はお団子に笑顔を見せた後、どんな真意が篭められてるのかは知らないが、必ずオレを睨みつける。オレもそれに応じる形で奴を睨み、みちるさんが手助けをしてくれればそのまま奴をいじることもある。 奴はオレが優位に立つことには不満を覚えながらも、お団子と、そしてみちるさんとふざけ合うことは楽しいらしく。オレと二人で居る時には決して見せないような優しい笑みをこぼす。 そんな奴を見ると。別に好意なんて抱いちゃいないはずなのに、何故だか胸が痛むんだ。 だから、余計にお団子を大切にしなけりゃと想う。 そして、いい加減終わらせなけりゃとも思う。こんな、ズレた関係は。互いのために でも終わらせることは出来ない。オレはお団子とこの先どう頑張っても結ばれることはないと決まってるし。奴はこの先何があってもみちるさんと結ばれることはないと決めている。 勿体無いと思う。互いに想い合っているのにそれを押さえつけるなんて。例えそれがこの地球では不自然と言われる形であったとしても、お互い納得してんなら別にいいんじゃねぇのって。 けど、それを言った時、奴は性別が問題なわけじゃないと言った。 「遊び相手なら、お前以外に居るって言っただろ」 「女か?」 「……どっちもだな」 「お前、サイテー」 「一人でも二人でも。みちるじゃないなら同じだろ?」 笑いながら、まるで誰しもがそう思ってるかのように奴は言った。その物言いにいつもならムカつくはずなのに。今日は何故かズキと胸が痛んだ。 みちるさんじゃないなら同じだって? でもオレは。例え衛さんの代わりだったとしても、お団子がオレを選んだと思ってるし。……思ってる、し? ああ、そうか。だから、だったんだ。 「オレは。お前をお団子の代わりだとは思ってない」 「そりゃそうだ。タイプが違いすぎる」 「性欲の捌け口とも思ってない」 「……へぇ。そいつは知らなかった」 「お前が、オレをみちるさんの代わりにしてるとも、思ってない」 「そりゃあ、みちるの代わりになれる奴なんていないさ」 「伝えない想いの捌け口の一人とも思ってない」 「……何が言いたい?」 お前がオレを選んだのだと、思いたいんだ。何人かの内の一人、じゃなく。オレだから、選んだんだと。 「おい」 「別に。……ただ、何でお前がみちるさんに想いを告げないのか分かんねぇだけだよ」 卑怯だ、とは思ったが。オレはみちるさんの名前を出して逃げた。睨まれるのを覚悟で。 けれど、横目で見た奴の顔は、予想外に思いつめた表情をしてて。オレは妙に緊張しちまった。 「……お前らなら、倖せになれるはずだろ?通じ合ってんだから」 「さぁ、どうだろうな。みちるはそうかもしれないが。僕は……無理だろう」 「何でだよ」 「みちるもそれだけは知らないけど。でも通じ合えばいずれは気づく。僕が彼女に抱いてる恐怖に。そしてそれに気づいてしまった時、みちるは倖せになる術を失う」 「恐怖?」 「この状態は、決してみちるの望んでいる最大級の倖福ではないだろう。だけど、決して不倖ではない。だから、これでいいんだ」 オレの質問には答えず、何処かあらぬ一点を見つめながら。まるで自分に言い聞かせるようにして言う。もう一度、これでいいんだ、と呟く奴に、オレは今度こそ頭に来てその体を裏返した。体重をかけてのしかかり、両手で、奴の両肩を押さえ込む。 「分かんねぇな。お前、みちるさんとなら地獄にでも共に堕ちてく覚悟があるんだろ?それなのに何を恐れてるんだ?」 「お前になんて分からなくていい。誰にも。理解されたいとも、思わない」 抵抗こそはしないが、思い切り目をそらされた。 初めて見る、弱気な姿。サイテーな話だけど、そこに女を感じたオレは何も言えず。だた、胸の内で渦巻く色々な感情を奴のそんな姿のせいにして、いつもより無防備なその体に一晩中打ち付けた。 |
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