「寒い」
突然、足元から声がした。
「寒いんですけど」
次に、背後。
いつの間に移動したのかと。驚いて振り返るよりも先に、抱きつかれ。そのまま、落ちた。
「………」
「何、拗ねてるんですか?」
蔵馬の、お得意の植物のお蔭で、怪我はなかったものの。それが何となく、助けられたようで。情けない。
いや、落ちたのはこいつのせいなのだから、そういう考えは可笑しいのかも知れないが。
「何しに来た」
「温まりに」
「バカか、お前は」
言葉を放つ度に白く舞い上がるそれを見ながら、呟く。消える前に。手を伸ばして捕まえようとしたが。その手を、背後から伸びてきたでかい手に絡め取られてしまった。
「ねぇ、飛影。帰りません?」
ここに来るまでに冷えたのか。いつもは温かい蔵馬の手は、驚くほど冷たくなっていた。そう言えば。頬に触れるその髪も、いつもより冷たい。
「魔界へか?」
「意地悪だなぁ」
クスクスと、癇に障る笑い声。俺を抱きしめている腕に、少しだけ、力が入る。
その所為か。胸の辺りが苦しくなった俺は、蔵馬の腕に爪を立てた。服の上からでも分かるよう、強く。
「じゃあ、行きましょうか」
確実に、爪は食い込んでいるはずなのに。蔵馬はそれに対して何の反応も示さず。相変わらず、余裕のある声で言った。
いいようのない、苛立ちも似た苦しさに。その腕を振り払い、歩き出す。
「飛影?」
「……帰る」
「魔界へ?」
俺の視線の先を知っているくせに。わざと、そうやって確かめるようなことをするから。
「さぁな」
苦しくなる胸を、ぎゅと掴み。出来るだけ余裕のある声で返した。
「…素直じゃないね。ほんと」
だが、俺以上に余裕のある声を背後から投げかけると。足早に隣に並んだ蔵馬は、俺の手を無理矢理に握ってきた。
絡められる指は、冷たいはずなのに。何故か、温かく感じた。
|