君は気付かない。オレの、心変わりに。

「蔵馬」
 潤んだ瞳、熱っぽい声。伸ばされた腕がオレの首に絡まる。
「飛影」
 オレもそれに応えるよう唇を寄せる。けれど。
 いつもと同じように見えて違う日常。でもそれはオレひとりだけ。彼にとっていつもと変わらない行為。
 慣れた指が考えずとも彼の体を弄る。それに応える熱い吐息に、オレはもう何も感じない。
 何が原因でどうしてこうなってしまったのかは分からない。ただ急に冷めてしまった。そして原因が分からないから言い出すことも出来ない。
 彼は総てに理由をつけたがる。

「蔵馬」
 いつもなら行為の後ですぐにオレに背を向けて眠ってしまう彼が、珍しく声をかけてきた。
「なんです?」
 仰向けになっていたオレは彼の方を向いた。すると驚いたことに、彼は真っ直ぐにオレを見つめていた。
 呆気なくその目に捕まる。
「何があった?」
「何、と、いいますと?」
「……まぁ、別に構わんが」
 惚けるオレに彼は溜息混じりに言うといつものように背を向けて眠りについた。
 暫くして聞こえてきた安らかな寝息にほっと胸を撫で下ろす。
 気付かれたのかと思った。オレの心変わりに。何故気付かれてはいけないのか、理由がつけられないからだと思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。今、分かった。
 彼がオレから離れることが許せないんだ。例え、オレが彼から離れたとしても。
 だから、気付かないんじゃない。気付かれてはいけないんだ。
「飛影」
 月明かりに照らされている肩に、優しく噛み付く。
 愛おしいわけじゃない。だけど誰にも渡したくはない。
 矛盾している。
 けど、きっと。彼がオレの気持ちに気付いたら、オレは容易く彼を手放すだろう。
 ねぇ、飛影。君はいつまでオレの傍にいるつもりなんだい?
 何故か笑いがこみ上げてくる。それなのに。オレの口からは笑い声ではなく、嗚咽が零れていた。
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