渇き |
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「はっ」 息をつく。それすらも許さないというように蔵馬の口が俺の口を塞ぐ。舌とともに押しやった唾液を、蔵馬は喉を鳴らせて飲んだ。 やっとのことで、蔵馬が離れる。 体を触れ合ってキスをしていたせいで、離れた蔵馬の胸にも俺の胸にも、じんわりと汗が滲んでいた。まだキスしかしていないというのに体中が熱くなってしまっていることに、何故か苛立つ。 「随分と手荒だな。そんなに溜まっているのか?」 荒れる呼吸を何とか抑え、口元を歪ませながら言う。だが蔵馬にはそれが通じないようで、そう、と低く呟くとまた唇を重ねてきた。それまで両腕を捕まえていた手が離れ、俺の体を弄る。 手つきも、感触も、体温も。何もかもいつも通りだというのに、感じる空気は限りなく冷たい。俺の名を呟く声も、時折見せる攻撃的な眼も、俺の知っている蔵馬とはどこかが違っている。 お前は、誰だ? 「……飛影も本気を出して。こんなんじゃ、渇きが癒えない」 「渇き?」 「そう」 頷いた蔵馬の顔が、下腹部へと移動する。 俺の中にある違和感のせいで硬度の無いそれを何度か扱くと、口に含んだ。 「くっ……」 渇き。なんの?まさか単純に喉の渇きというわけではないだろう? だがそう疑いたくなるほど、蔵馬は俺のそこを舐め、きつく吸い上げた。当然、出したものは総て飲み込まれた。 「飛影」 「お前、誰だ?」 それぞれ魔界の別勢力につき、長い間会うことがなかったから。そんな理由では到底説明が出来ない。今の蔵馬は、何かおかしい。 「誰?誰って。オレはオレだ。他の誰でもない。じゃあ聞くが、飛影は誰に抱かれてるんだ?」 口調が、違う。 そうか。これは、妖狐のものだ。 「……妖狐蔵馬」 体に異物を挿入され呻きながら、どうにかその名前を口にする。我ながら情けないほど途切れ掠れた声だったが、どうやら蔵馬には届いたようだ。 激しかった蔵馬の動きが止まり、驚いたように俺を見下ろしている。 「飛影。今、なんて……」 「お前は俺の知ってる蔵馬ではない。妖狐蔵馬だ」 深緑と黄金の狭間で揺れ動くその目を睨みつけて言う。そう。この抱き方は俺が人間界に来る前、弱かった頃に妖怪達から受けた屈辱に近い。ただ、己の欲望をぶつけるような抱き方。 蔵馬は。俺の知っている蔵馬は、決してそんな抱き方はしない。最終的には箍が外れてしまったとしても、ギリギリまで俺の快楽だけを考え、慈しむように抱く。 「姿は、いつもの蔵馬のようだが。中身は違う。今のお前は自分の欲しか頭に無いただの妖怪だ」 「……それだと不満なのか?」 「なんだと?」 「飛影こそいつも自分の快楽しか考えてないだろう?今だって、自分に馴染まない抱き方をオレがしているから不満なんだ」 「……俺は、妖怪だからな」 「オレだって、妖怪だ。例え肉体が人間のものであっても」 蔵馬がゆっくりと微笑う。冷たい笑みだ。そう思った瞬間に、熱いものが再び俺の中で猛り始めた。 手を伸ばし、蔵馬の両腕に爪を立てる。いつもならその痛みに顔を歪める蔵馬だが、今日は、微笑ったままだ。 「足りない。魔界(ここ)では、これくらいでは足りない。そうだ。オレは餓えている。飛影のいうとおり、オレの中の妖狐の部分が渇きを訴えているんだ」 動きは更に激しさを増し、俺は耐え切れず声を上げた。だが、蔵馬はまだ足りないのか、俺の声すらも飲み込んだ。 流れてくる唾液が、振動のせいで上手く飲み込めず、気管に入る。だが、咽ることは許されなかった。 苦しい。だが、今までに無い快楽を感じていることも確かだ。そこに安らぎというものは微塵も無いが。 「くっ、あ。ああっ……!」 蔵馬がようやく俺に呼吸を許した時、俺は体を弓なりに反らせて射精した。その締め付けで、遅れて蔵馬も俺の中に熱い液を注いだ。 激しい呼吸が、洞窟内に響く。深呼吸を繰り返し、何とか気持ちを静めた頃、ようやく蔵馬が俺の体内から出て行った。 「……ごめん。飛影」 額に唇を落とした蔵馬が、俺を見つめる。その目はもう揺らいでおらず。綺麗な深緑をしていた。 「渇きは、癒えたのか?」 「時々、どうしようもなくなるんだ。オレの中に燻っている野性が暴走する」 「己を制御しきれていないということか。未熟だな」 「もう、いい年齢(とし)なんだけどね」 「結局、お前も妖怪だということだ。人間の肉体の中にいようと、な」 ごめん。もう一度そう呟くと、蔵馬は優しく俺を抱きしめた。湿った肌。いつもの体温。蔵馬の匂い。冷たい空気は何処にもなく、伝わってきたのは俺に対する、所謂愛情という奴だった。 不思議なものだ。蔵馬の優しさに目を細めながら思う。 この関係になった頃、魔界に戻れないことからくる渇きを訴えていたのは俺だった。そして、妖怪がするような、激しい抱き方をされることで、俺は渇きを癒していた。 だが今は。魔界に来た俺の渇きは、激しさなどでは癒されない。俺は、蔵馬の、その、愛情というやつしか飲み込めなくなってしまっている。蔵馬は魔界に来て、野性のような渇きを再び覚え出しているというのに。 なかなか、上手い具合にはまらないものだな。 擦れ違いの熱情に思わず笑ってしまう。 このまま俺が魔界に居続ければ、以前のように激しさによってのみ充たされるようになるのだろうか? それとも、蔵馬とともに人間界に変えれば、蔵馬は以前のように俺に愛情を与えてくれるようになるのだろうか?そして俺はそれで充たされるのだろうか? 分からない。だが、以前の俺には戻りたくないという気持ちはある。激しさのみなど。それなら相手は蔵馬でなくても充たされるということだ。 ならば、今の蔵馬は、俺でなくとも構わないのか? 「……蔵馬」 「何?」 「お前は……」 まさかとは思うが。黄泉と……? 「飛影。もう1回しませんか?もう、さっきみたいな抱き方はしないから。……久しぶりだから、まだ、足りなくて」 久しぶりだから。その言葉に、俺は無駄に安堵した。そして、何故蔵馬が黄泉を抱いているかもしれないということに不安を抱いていたのかが分からなくなった。 いや、それは分からないままのほうがいいだろう。 そんなことを考えていると、背中に蔵馬の腕が回され、体を起こされた。 「おい、蔵馬」 「貴方のこと。抱きしめながらしたいんですよ。久しぶりだから。もっとその体温とか匂いとか。感じたい」 自分のものを扱きあげると、蔵馬は俺を膝に乗せるようにして挿入した。蔵馬の胸板が俺の背にぴったりと重ねられる。 「勝手な奴だな、お前は」 「やっぱり、オレも妖怪だから」 熱い吐息とともに悪態をつく俺に、蔵馬は優しい声でそう言うと、首筋に甘く噛み付いてきた。 そして、渇きを癒すかのように、うなじに滲んだ汗に舌を這わせた。 |
野生的な蔵馬を書こうと思って失敗(笑) 飛影は自分を優しく抱く蔵馬が好きなんだと思う。 ……これってエロには入らないよね? |
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