Glay Sky
 玄関を開けると、飛影のにおいがした。
 遅くとも昼にはオレの部屋からいなくなり、早くとも日付が変わる頃に部屋にやってくるのが彼の常だから、つまりは今日は一日中部屋にいたことになる。
 どうして。
 そう疑問を抱いたのは一瞬で、かじかんだ自分の手に、ああもうそんな時期なのか、と思った。
 靴を脱ぎ、真っ直ぐに彼のいる寝室へと向かう。
「ただいま」
 オレの声に彼は軽く一瞥をくれただけで、視線はすぐに窓の外へと戻る。そこに広がるのは星空などではなく、灰色の空。
 感情の種類は違っても、オレが飛影を待っている時の姿はあんな感じなのかな。
 微動だにしないその背中に、思う。その相手がオレならば微笑んでしまうのだけれど、彼が待っているのは相手と呼べるものではない。
「飛影。寒いでしょう?」
 彼の視界に入らないよう気をつけながら、抱きしめる。本当なら頬を寄せたいのだけれど、そうしようとすれば拒まれることは必至。
 とはいえ、温もりは伝わっているはずなのに彼は相変わらず微動だにしなかった。悔しいとは思うけれど、拒まれるよりはマシだと思うことにする。ただ、ずっと無視をされるのも癪だとは思う。から。
「雪、降るのかな?」
 耳元で囁くと、彼の体が少し震えた。
「……何のことだ?」
 ようやく聞けた声。
 そのことに満足したオレは、拒まれるよりも先に腕を離した。振り返った彼が、オレを睨みつける。
「ただいま、飛影」
 彼の視線を受け流すように微笑うけど、受け流されたのはオレの言葉の方だった。
 フンと鼻を鳴らした彼は、けれどもう窓を見やることはなく、広げたオレの腕の中に大人しく収まった。
 雪が、どんな感情を彼にもたらすのか、その総ては知らない。一つは憎しみであることは分かっているけれど。それだけじゃないだろう。
 ただ、雪が降りそうになったり降っていたりすると、彼が温もりを求めようとすることは知ってる。彼はそのことに気付いていないようだけど。今日オレの部屋から出なかったのも、恐らくはそのせいだろう。
 雪国だったら良かったのにな。
 彼の首筋に唇を落としては、そんなことを思う。
 自分の力ではないことが少し口惜しいといえば口惜しいけれど、それでも彼が素直にオレの求めに応じてくれるのは嬉しいから。
「冷たいな」
「え?」
「手だ」
 彼の言葉に、肌に触れていた手を思わず離す。
「黒炎で温めてやろうか?」
 オレの手を掴み、彼がニヤリと笑う。そう言っている彼の手も、オレほどではないにしろ、普段より冷たい。
 そういえば、彼はどうせいなくだろうと思い出掛けに暖房を切っていたことを今頃思い出した。だが、この状況で暖房なんて点けにいけるはずがない。
「遠慮します。あなたの炎に触れたら、灰になってしまうだろうし。それに」
 言葉を切り、彼の手を解く。
 そうして自由になった手は、再び彼の肌を滑りはじめた。
「どうせすぐ温まるから。だから、少しの間、我慢してて」
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