可哀相
「可哀相な奴だ」
 抱きしめられた耳元で言われた。一瞬、誰のことかは分からなかったが、この場に居るのはコイツとワシだけだということを思い出した。
「それは自分のことか?」
「お前のことだ。コエンマ」
 冷たい手がワシをベッドへと押し付ける。慣れた動きが服を剥いで行く。その指先に誰かを見た気がして、ワシは振り払った。体を横に向け、顔は枕へと押し付ける。
「どうした?」
「……何故ワシを可哀相だと思うんだ?」
 他の誰かを想っているからか?
「何故だろうな。お前はこんなにもオレに愛されているのに」
「そういう、嘘を吐かれるからではないのか?」
「嘘ではない」
「……狐が何を今更」
 手を伸ばし、髪とは違う手触りのそれに触れる。
 不思議なものだ。妖狐の姿しか知らない間はなんとも思わなかったが、ついさっきまで人間であったその姿を見てしまうと、触れている耳が飾り物に見えてくる。
「好きか?」
「別に」
「そうだな。お前はこっちの方が好きだったな」
 問われて慌てて手を離したワシに蔵馬は笑うと、手を自分の尻へと導いた。正確には、そこから生えている尻尾へと。
「別に好きじゃない」
「嘘を吐け。昔は飽きもせず触っていたくせに」
「昔は昔だ。今のワシはこんなもんに興味はない」
「興味があるのは、こっちか?」
 今度は別の場所へと導かれ、布越しにその硬度に触れたワシは、すぐに手を引っ込めてしまった。
「今更驚くな。好きなんだから仕方がないだろう?」
「……年中発情期狐が」
「そうじゃない。好きなのはお前のことだよ、コエンマ」
 甘く囁かれ、顔中が熱くなる。見られる前に慌てて枕に顔を押し付けたが、時既に遅しか、それともその行動でバレてしまったのか、蔵馬は喉の奥で笑っていた。
 腹が立ったが、恥ずかしさで睨みつけることが出来ない。そのことが余計に悔しくて、窒息するのも構わずにますます枕に顔を押しつけた。
「おい、いつまでそうしてる気だ?顔を見せろ」
 蔵馬の手がワシの顎を探り当てる。強引というほどの力もなく、あっさりとワシの顔は枕から引き剥がされた。新鮮な空気を吸う暇もなく、唇が重ねられる。それに応えると、蔵馬の動きが一瞬だけ止まった。
「やっぱり、可哀相な奴だよ、お前は」
 唇を離し、ワシの頭を撫でながら蔵馬はまたそう言った。その手つきも表情も、子ども扱いをされているみたいで癪だったが、それ以上に心地よさを感じてしまったワシは、反論もせずただバカみたいに蔵馬を見つめていた。




別に蔵飛が前提というわけじゃないんだけど。
そう思い込んでるコエンマが可哀相(笑)
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