fever
 体がおかしいことに気付いたのは、目覚めた時だった。
 兎に角、体が熱い。呼吸が速い。喘ぐようにマフラーを外しマントを脱いだが、どうにもならない。
「ちっ。蔵馬め。一服盛ったか?」
 昨夜は久しぶりに蔵馬の部屋に行った。蔵馬曰く、三ヶ月ぶりとのことなのだが、普段魔界で時間の感覚のない生活をしている俺にはピンと来なかった。
 だが、行為の激しさに、俺はようやくそれが久しぶりであったことを実感した。
 ――次はもっと早く来てくださいね。
 窓に手をかけ倒れに、ベッドに寝たままの蔵馬がかけた言葉。それは、このことを仕組んだからこそのものだったのか?
「望み通り、来てやった」
 勢いよく窓を開け、部屋に飛び込む。俺の妖気を察知していたのか、それともこうなることが分かっていたのか、蔵馬は大して驚いた様子を見せることもなく俺の足元に跪くと靴を脱がせた。
「早いですね。今回は」
「お前が、仕組んだことだろう?」
「えっ?」
「惚けやがって」
 稀に見せるあどけない表情。それをこの状況で持ち出したことに頭にきた俺は、蔵馬の胸倉を掴むと噛み付くようなキスをした。
「ひ、えい?」
「体が熱いのは、お前が俺に何かしたからだろう?どうにかしろ」
 胸倉を掴んだまま蔵馬をベッドに押し倒し、その上に跨る。蔵馬の服を脱がし自分の服も脱ぐと、肌を合わせるように体を折った。触れる蔵馬の肌を冷たく感じる。
「ちょっと、飛影。オレは何も」
「惚けるな。俺がすぐにお前の元に来るよう、一服盛ったんだろう?早くこの熱を静めろ」
 体の位置を入れ替えて、蔵馬を見上げる。その表情は本当に困っているように見えたが、すぐに分からなくなった。視界が、滲む。
「飛影、あなたもしかして。ねぇ、飛影?」
 蔵馬が俺の体を弄る。それは愛撫と呼べるものではなかったが、俺は蔵馬の手に安堵を覚え、そして――。

「飛影。目が覚めた?」
 目覚めると、蔵馬の部屋は赤く染まっていた。夕日なのかと思ったが、その窓から夕日が見えるはずが無いため、これは朝日なのだと分かった。
「俺は……」
「あまりの高熱で意識を失ったんですよ。殆ど一日、寝てました。……でも、薬が効いたみたいですね」
 俺の額に手を乗せた蔵馬は、そう言うと微笑った。机においてあった水と薬を俺に差し出す。
「何だ?」
「分かってるでしょう?飲んでください」
「ふざけるなっ。こんな目にあって、誰が今更お前の作ったものなど……」
「風邪、ですよ」
「なに?」
「あなた、風邪を引いたことなかったんですか?」
 大袈裟に驚いて言うと、蔵馬は何故か口元をつりあげた。
「何が可笑しい」
「暑さには強くても、自分の内から来る熱には弱いんですね」
 人差し指で俺の唇に触れ、そのまま指先を首元まで落とす。その感触に、昨日の失態を思い出し、俺は反論のタイミングを失った。
 黙った俺に、蔵馬が溜息を吐く。
「妙なものは入ってませんから。兎に角、この薬を飲んで寝てください。一応は熱は下がりましたが、無茶をしてぶり返したらどうしようもないですから」
 無茶とは何の事なのか。少し疑問に思ったが、俺は黙って蔵馬の差し出した薬を飲むことにした。また熱にやられて妙な行動をとるわけにはいかない。
「それにしても。昨日は勿体無かったな」
 横になった俺に毛布を掛けると、蔵馬は俺の額に手を当てながら呟いた。それはぼんやりとした声ではあったが、目は真っ直ぐに俺を見つめていた。
「折角あなたがオレを選んでくれたのに」
「……別に、選んだわけじゃない。ただ、貴様が何かしたのだと」
「思ったからって、別にオレじゃなくてもよかったはずだ」
「…………」
「なんてね。昨日は、もどかしかった反面、嬉しくもあったかなって。それだけの話ですよ」
 目を細め本当に嬉しそうに微笑うと、蔵馬は俺から手を離した。その手が遠くなる前に、しっかりと掴む。
「……飛影?」
「人間界に来て風邪とやらをひいたのであれば、それは貴様の責任だ。やはり貴様がどうにかしろ」
 呟いて、蔵馬の手のひらを頬にあてる。いつもは温かく感じるそれは、ひんやりと冷たく、気持ちいいと思った。
「……もしかして、また、熱出てきたのかな?」
 そんな俺の行動に、蔵馬はからかうような口調で言うと、それでも俺から手を離そうとはしなかった。




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