Happy Birthday |
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何が、欲しい。 長すぎる口付けのあと、飛影が言った。珍しく押し倒される形になっていたオレは自由になった呼吸に気を取られていて反応が遅れてしまい、そのことに機嫌を損ねたのか、彼はオレを睨みつけるとあっさりと身体を離した。 「待って」 背を向けられる前にその腕を掴み、引き寄せる。予想していなかったわけじゃないだろうに、それでも彼はオレに向かってバランスを崩したように倒れてきた。その身長からは想像も出来ない筋肉質な身体を、しっかりと抱きとめる。 「突然言われて。答えられるわけないだろ。それとも、君なら何が欲しいと聞かれて、すぐに答えられる?」 「俺は……」 言いかけて飛影が口を噤む。 どうして黙ってしまったのか。理由が気になり顔を覗きこむと、そこに飛影の言葉の続きが書いてあり、オレは思わず笑った。どうして笑うのかと、飛影が睨みつけてくる。 「これだけオレをあげてても、まだ満足できないんだ」 身体を反転させ、飛影をベッドへと押し付ける。心を読まれ硬直している飛影の、白い首筋に噛み付くと、バカ、という声と共に髪を掴まれた。強引に、引き剥がされる。 「痛いよ、飛影」 「ふざけたことを抜かすからだ。それで、欲しいものは思いついたんだろうな」 「ここは。オレも、あなたが欲しい、と答えるべきなのかな?」 「知るか」 オレも。その言葉の意味に気付いたのか、飛影はぶっきらぼうに言うとオレから手を離した。赤い顔を、背けている。 「でもどうして、急にそんなことを? あなたからなら。頼みごとくらい無償で引き受けるけど」 「交換条件でないと、俺はお前にそういう質問をしてはいけないのか?」 どうやらオレは、また飛影の機嫌を損ねてしまったらしい。 オレをにらみつけた飛影は、もういい、と付け加えると腕の中からすり抜けるようにしてベッドを降りた。部屋の隅に立てかけていた剣を腰のベルトに引っ掛けている。 「待って。駄目だとは言ってないだろ。ただ、飛影が珍しくそんなことを言うものだから」 勘繰って、悪かったよ。窓に向かっている飛影を背後から強く抱きしめ、その耳元で囁く。フン、と鼻を鳴らした飛影は、窓枠から離した手をオレの手に重ねた。悪かったな、珍しくて。独り言のような呟きが、聞こえてくる。 「オレは、何も要らないよ。欲しいものは今、総て手に入れているから」 母さんは新しい家族と共に倖せになった。オレは今、人間としての生活を手にしている。そして今ここには、飛影がいる。 「ただ、そうだな。欲しくないものなら、ある」 振り向かれないよう、飛影を抱きしめている手に力を込める。少し遅れて飛影が振り向こうともがいたが、オレの腕の強さにすぐに諦めたようだった。溜息の後で、何だ、と聞いてくる。 「寿命だよ。オレは、まだ。あなたと離れたくない」 寿命なんて来なくても、いずれは飛影と離れる時が来るだろう。飛影から、離れるのならそれは構わない。だけど、オレからは離れたくはない。少なくとも、今は、まだ。 「何度も生命の危機を切り抜けてしぶとく生き抜いてきた奴が、何を今更。心配するな。貴様はそう簡単には死なん」 飛影の言葉に、身体の奥底に溜まり始めている暗い影が疼く。だと、いいんだけど。と、その言葉は飲み込んで、オレは手を離すと飛影に微笑んだ。 「そうだね」 身体を屈め、小さな唇にそっと触れる。それだけですぐに離れようとしたが、飛影がそれを許さなかった。 オレのうなじにひやりとした手を置いて、深く貪る。 「だが、お前がもし死を欲するようになったら、俺に言え。その時は、俺がそれをくれてやる」 「え?」 「バースデープレゼントは、それまでお預けだ。せいぜい無駄に歳をとっていくことだな」 ねぇ、それは何処で知った情報? したり顔で笑う飛影に聞こうと思ったが、次の瞬間にはもうどうでもよくなった。どちらから、というわけでもなく、傾れるようにオレたちはベッドへと向かっていた。 |
それを言える距離にいるということ。 ほんと、飛影は蔵馬の誕生日を誰から聞いたんだろ。 |
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