悪戯


「こらっ、不二!」
「あはは」
 声を荒げる乾と、それを微笑って交わす不二。そんな二人の隣で、俺はいつも少しだけ除け者にされたような気分になる。
「まーったく、不二も懲りないよなぁ」
「ん?何?」
「気になったんだけど。不二って乾に怒られんの理解っててさ悪戯してない?」
 手塚に罰として命令されたランニング中、俺はずっと気になってた質問を不二にしてみた。けど。
「さぁ、どうだろうね」
 返ってきたのは相変わらずの読めない笑みで。俺は残念だという意味と安心したという意味の混ざり合った溜息をついた。
 なんで安心したかって?それは、あれだよ。自分で不二に訊いておきながらなんだけど、俺だって、不二を偏見の目で見たくないからさ。
 俺と不二は毎日のように色んなやつらに悪戯をしている。だから怒られるのも当然なんだ。現に今だって、手塚に悪戯した所為で走らされてるし。
 でも、それは普通。誰だって、自分に悪戯されたらそりゃ怒る。まぁ、大石とタカさんは優しいから許してくれるけど。
 ただ、乾だけは特殊な反応をするんだ。今日不二を怒ったのだって、不二が手塚に悪戯をしていたからで。不二が乾に悪戯をしたときなんかは、乾は、しょうがないな、という顔をするくらいで、殆んど怒らない。普通は逆だろ、って思うんだけど。
 一回、悪戯で乾のパソコンのデータを吹っ飛ばしたことがあったけど、そのときも乾は怒らなかった。流石に怒るだろうと思ってたから、あの時は乾の寛大さにコイツは大物かもしれないと思ったもんだ。
 でもそれは間違いで。今日なんかは、手塚が顔を洗っているうちに手塚の眼鏡と鼻眼鏡を交換して、知らずにそれをつけた手塚を笑うって言うほのぼのとした悪戯だったのに、乾はもの凄く怒った。しかも、不二だけを。
 そうなんだ。乾はいつだって不二だけを怒る。だから最初は、乾は不二のことが嫌いなんじゃないかと思ってたんだけど。どうもそれは違うらしい。だってそうじゃなきゃ、俺がこんなに疎外感を覚えることは無いはずだし。
 不二にしても、乾にも他の部員にも平等に、いや、最近は手塚に対してが多いかな。でもまぁ、とりあえず、皆に悪戯を仕掛けてるんだけど、実行するのはいつも乾が近くに居るときで。乾にまた怒られるから後にしよう、っていっても、大丈夫気づかないって、なーんて言って悪戯を実行するんだ。しかも、乾が俺たちを気にしているときを見計らって。
 もしかして、不二は乾に構って欲しいんじゃないかな?とか、乾は不二が他の奴にちょっかい出してるのが気に食わないんじゃないかな?とか。俺の中の妄想もとい憶測は日に日に妖しい方向へ走っていくばかり。
 このまま妖しい結論が出るのも困るけど、実際に二人に聞いてそういう答えが出るのも困る。そりゃあ、俺だって、不二が俺を差し置いて他の奴を親友だと思ったら面白くないけど。でも、そう言う俺の気持ちと乾や不二の気持ちは別のような気がするから。そういう結論に達したら、不二と友達を止めるなんてことは絶対有り得ないけど、やっぱりちょっと偏見の眼差しは抑えられないと思う。哀しいけど、人間なんてそう言うもんだ。
 でも、二人の気持ちが気になるのも、事実なんだよな。
「英二っ、何周走るつもり?」
「えっ?わっ」
 不二に手を思い切り引かれて、俺は不二の方に倒れこんでしまった。身長差は結構なものだから、不二がよろけながら俺を受け止めた。
「ごめん。ぼーっとしてた」
「全く。そんなんで良く転ばなかったね」
 体勢を立て直した俺に、不二は困ったように微笑った。その不二の眼に、二つの人影。
「英二はまだ走り足りないらしいな」
「何なら、あと10周、追加するか?」
「……乾、と手塚」
 振り返ると、二人が俺を威圧するような感じで立っていた。さっき悪戯して怒ったのよりも怖い顔で。
「ちょっと二人とも。英二は周を数え間違えただけだから」
 怯える俺を庇うように、不二が二人の前に立った。慌てて俺は不二の後ろに隠れた。勿論、背中を丸めて。
「それでも英二を走らせるって言うなら、僕も一緒に走るけど?」
「…………」
「……菊丸。ランニングは終わりだ。早くコートへ戻れ」
 不二の言葉に、二人はすごすごとコートへと戻って行った。あっさり過ぎる結末に、何だが拍子抜け。
「全く。困ったもんだよね、あの二人も」
 クスクスと微笑うと、不二は肩を掴んでいる俺の手を叩いた。手を放し、背筋を伸ばす。
「英二も」
「俺も?」
「まぁ、そう言う所がみんな可愛いんだけどね」
 隣に並んだ俺に言うと、不二は愉しそうにまたクスクスと微笑った。その笑顔に、一つの妄想は消えたけど。今日の出来事を総合して、代わりにもう一つ、新たな妄想、じゃない、憶測が生まれてしまった。
 消えたのは、不二の乾に対する気持ち。生まれたのは、手塚の不二に対する気持ち。ついでに、確信したのは、乾の不二に対する気持ちってところか。
「なぁ、不二」
「ん?」
「俺たちで遊んで愉しい?」
「うん。すっごく」





365題『コラッ!』の不二乾ネタを考えていたらこうなりました。
不二←乾、不二←手塚、不二+菊丸な図。
最初はね、菊丸に不二乾を語らせる予定だったの。それが何故かこんな展開に…。
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