DNA


 データによると、彼は俺の尤も苦手とするタイプ。何を考えているのか解からない。相性も最悪。しかし、何故か一緒に居る。妙な関係。だが、それは、まんざら悪くもないようだ。

「いーぬーいっ」
「……っつ」
 突然、背後から飛びつかれ、俺はPC画面に強かに頭を打ち付けた。
「不二。俺は逃げないから。頼むからもう少し大人しく抱きついてきてくれないか?」
 ずれた眼鏡を直すと、俺はPC画面を見つめたままで言った。
「あはははは。ごめん、ごめん」
 対して悪びれた様子もなく、彼は俺の額をさすった。
「でも、乾がいけないんだよ。僕そっちのけで、画面に向かってるんだから」
 どれだけ探したと思ってるの?と彼が耳元で囁く。
 言うだけあって、彼は俺を探すために相当な距離を走ってきたようだった。耳元にかかる息は少々荒く、湿っぽい。
「それはすまなかった。でも、言わなかったか?昼休みは大抵パソコン室にいるって」
 額に当てられている手を取り、振り返る。彼は俺の膝の上に座ると、少し頬を膨らせた。
「うん。だから僕、一度ここへ来たんだ。でも、ここ開いてなくってさ。焦っちゃったよ」
 そう言えば前の授業が押していて、ここに来るのはいつもよりも遅くなってしまっていたかもしれないな。だが、俺が遅れたということは、彼が焦った理由にはならない。
「それも、すまなかった。謝るよ。けど、そんなに遅れたわけじゃないだろ?お前ならいつでも鍵を開けられるんだから、先に入って待ってればよかったじゃないか」
 寄り掛かってくる彼の頭を、なだめるように撫でながら言った。彼はその手を取ると、自分の肩に回させる。
「乾がいないのに、何で僕がこんな所で待ってないといけないんだい?」
「だから…」
「君のいない時間が、僕にとって一番の苦痛だってこと、わかってる?」
「……………。」
 少し潤んだような眼で見つめられて、俺は何も言えなくなった。そんな俺を見て、何か言えと促すように、彼は自分の肩にかけられた俺の手を強く握った。
「………すまなかった」
「さっきから、そればっかりだよ」
 やっとのことで口から出てきた言葉に対し、彼は突き放すように言うと、視線を逸らし、わざとらしくむくれた。
「……じゃあ、何て言えばいいんだ?」
「得意のデータに訊いてみたら?」
 言うと、俺の手からマウスを取り上げ、ファイルを開けた。出てきたのは、今は何の役にも立たない、テニスのデータ。
 俺は溜息を吐くと、彼の手からマウスを取り戻し、そのままPCを終了させた。
「なんだ。消しちゃうんだ」
 それじゃデータに頼れないんじゃないの?と彼は微笑いながら言った。
「……生憎、俺のデータにはこういう時の対処法は載ってないんでね」
 もう一度、溜息を吐く。
「なあ、不二。俺はどうしたらいい?どうしたらお前は許してくれる?」
 彼の機嫌をこれ以上損ねないようにと、出来るだけ優しい声で言う。彼は、そうだね、と呟き、暫く宙を眺めていたが。何か思いついたらしい。俺の方を見ると、愉しげに微笑った。
「…じゃあ、さ。キス、してよ」
「………なっ」
「乾から、して。それで許してあげる。ねっ」
 もう一度、彼が左手を強く握る。俺はどうすべきか、しばし迷った。ここは学校。幾らこの部屋には俺たち二人しかいないとはいえ…。
「じゃないと、許してあげないよ」
 俺の戸惑いを読んだのか、彼は再び顔を背けた。こうなってしまっては…。彼の言うことを訊くしかない。
 俺は小さく溜息を吐くと、手を強く握り返した。
「不二。」
 名を呼び、口付けを交わす。触れるだけのもの。に、なる筈だったが…。
「……んっ…」
 彼は右手で器用に俺の頭を掴むと、深く唇を重ねてきた。
 長すぎる口付けに呼吸が苦しくなり、俺は身じろぐ。それを察知してか、彼は唇を離した。
「はっぁ……」
 与えられた酸素に、俺は何度か深呼吸を繰り返した。クスクスと笑いを溢す彼を睨みながら、口元をだらしなく伝い落ちるものを拭う。
「不二っ、お前…」
 抗議の声を立てる。が、彼にはそれが全然通じないらしく、立ち上がると、俺に妖しげな笑顔を向けた。
「ねぇ、乾。午後の授業、サボっちゃおっか。ここ、今日はもう授業入ってないみたいだから」
「なっ…」
 唖然としてる俺の眼鏡を取り上げ、耳元で囁く。
「大丈夫。ここに入ってくるとき、ちゃんと鍵閉めて置いたから」
 クスクスと愉しげに微笑うと、今度は彼の方から俺に口付けた。





♪大(D)っ嫌い な(N)のに 愛(A)してる♪
川本真琴。DNA。ちょうど、パソコン室の椅子ってくるくる回るヤツだしね。
テニとはカンケー無い話だけど、川本真琴はこの歌を作るときに椅子に座ってくるくる回りながら歌詞を書いたんだって。
♪ぐるぐる まわーってーる まわってーる まわってーる やっぱりあなたが好き〜♪ってな具合に

つぅか、お気づきですか?短編では、不二乾ってこれが初めてなの。
結構数があるように思えるけど、それって全部ゲームシリーズなんだよね。
嗚呼。これでやっと報われたね、乾サン(笑)
…それにしても。不二くんも大分無茶な体制でちうするのね(爆死)

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