早朝デェト


「ねぇ。デートのときくらい、そのノートしまってくれてもいいと思わない?」
 ファインダーを覗いたまま振り向くと、シャッターを一枚だけ切られた。無断で撮るなと言ってあるのに。
「写真、撮るなよ」
「いいじゃない。君だって、無断で写真撮ってるわけだし」
「なっ…」
「知らないと思った?」
 カメラを下ろし微笑うと、俺の隣に立ち、腕を捕った。
「乾って、変態チックだよね。あ。ストーカーか」
 腕を絡め、手を繋ぐ。
 …全く、好き勝手言ってくれるよ。
「そんな俺を好きな不二は、何なんだろうな」
「ん。僕はいいの。変態だから」
 ね、と俺を見あげて微笑った。……か、可愛い。
「あ。乾、顔紅くなってるよ。可愛い」
 ………はぁ。
 早朝デート。と言うより、俺は朝っぱらからこの男に電話で起こされ、呼び出された。写真を撮りに土手まで行くから付き合え、と。だから正直言って、今、もの凄く眠い。でも、俺には拒否権なんてものは存在しないから。
「…乾、眠そうだね」
 せっかく噛み殺した欠伸も、コイツは目ざとく見つける。不二の前じゃ、着飾っても無駄ってことだ。努力をすればするほど、無駄だと言わんばかりの会心の笑みが返ってくる。
「まぁね。眠ってる所、起こされればね」
 だから、正直に答えるしかないんだけど。
「…それ、迷惑だったってこと?」
 沈んだ声に驚いて見下ろすと、不二は俯いて足を止めた。
「だから、君は僕に嫌々付き合ってるってこと?」
「え、あ。だから、それは…」
 正直に言うのも考えもんだな。一度対処を間違えると、こうなる。
「もう、いいよ。帰る。乾、帰って寝直しなよ。ごめんね、無理矢理付き合わせちゃって」
 対処に迷っている俺に、不二は早口でまくしたてると手を放し、スタスタと歩いていってしまった。
 ああ、これだから…。
「待てよ、不二。」
 急いで追いかけると、俺はその肩を掴んだ。思いっきり引き寄せ、抱きしめてやる。
「ごめん、不二。俺が悪かった。嫌々来てるわけじゃないんだよ。ただ、昨日は遅くまでデータ整理をしてて、だな。あー、だから、その、こういうことは前もって言っておいてくれれば…」
 言いかけて、俺は抱きしめた不二の肩が震えていることに気付いた。
「…不二?泣いてるのか?」
 肩を掴み、その顔を覗き込む。確かに、目に涙は溜まってはいる、が。
「あはははは。慌てちゃって。乾、おっかしー」
 俺と眼を合わせると、堰を切ったように不二が笑い出した。
「ふ、じ?」
「乾が僕を追いかけてくる確率85パーセント、ってね。」
 涙を拭くと、不二は俺の腕を組んだ。全体重を俺に預けてくる。まだ、笑いが止まらないらしい。せっかく拭き取ったのに、目には再び涙が溜まり始めていた。
「おいおい。騙したのか?」
「別に、騙したってわけじゃないよ。君が追ってこなければ、僕は本気で帰るつもりだったし」
 言うと、不二は深呼吸を繰り返し、息を整えた。そのあとで、もう一度だけクスリと微笑う。
「ま、帰ったら帰ったで、どうせ君は電話して僕に謝ってくるんだから、僕としてはここで君に引き止められても引き止められなくても良かったてわけ」
「………。」
「要するに、君が僕に謝ってくる確率100パーセントってことだね」
 自分の発言に不二は自分で頷いてみせた。悔しいけど、俺も頷かざるを得ない。不二の言う通り、俺はここで不二を引き止められなかったら、家に帰ってから電話でもするつもりだった。しかし。こうも完璧に俺のデータを出されると、俺の立場がないんだけど…。
 溜息を吐き、不二の腕を解くと、俺はデータノートを開いた。不二のページをめくる。そこには、ちょっと調べれば誰にでも判るようなデータしか書かれてはいない、3分の2も埋まってない、余白だらけのページ。
「あ。それ、僕のデータだよね?ちょっと見せて」
「ちょっ…おい、こらっ…!」
 俺が止めるよりも先に、不二はノートを取り、見つめた。ヤバイと思ったときは既に遅く、不二の顔がどんどん曇っていく。
「あのな、違うんだよ、これは…」
「乾、この破ったあとは何?」
「?」
 言って不二が指差したのは、不二のページの前にある、ノートを破り取った痕跡。てっきり余白部分を攻められると思ったんだが。…それにしても。相変わらず、目ざといな、コイツは。まあ、その所為で今回は救われたみたいだけど。
 俺は小さく溜息をつくと、不二からノートを取り上げた。丸めて右のコートのポケットに押し込む。
「あれは、お前のせいだよ」
「僕の?」
「そう、不二のせい。」
 不二の顔に疑問が浮かび、曇った顔が薄れる。この調子なら、なんとか機嫌を最悪の方向に持っていかなくて済みそうだ。
 俺は不二の右手を握ると、自分のコートのポケットへと突っ込んだ。俺の行動に、不二が少しだけ笑みを見せる。俺も笑みを返すと、ゆっくりと歩き出した。
「お前が正確にデータを取らせてくれないからだよ。きちんとデータを取って書き込んだつもりでも、間違ってるんだよ。全部。だから、その度に破り捨てるハメになったんだ」
「……ふーん。でも、それはあくまでテニスのデータでしょ?」
「あのなぁ…。」
 普段のお前もよく解からないんだよ。言おうとして、止めた。せっかくいい方向に不二の機嫌を持っていくことが出来てるのに、わざわざ機嫌を損ねるようなことを言う必要はない。
「とにかく、5ページ以上は無駄にしているんだよ。だから今は、解かりきっていること以外、ノートには書かないことにしてるんだ」
 これじゃ、言い訳としては駄目だろうか。
 横目で不二を見る。と、不意に不二がこっちを向いたので、俺は慌てて目を逸らしてしまった。わざとらしい。やっちゃった、かな?
「『ノートには』ってことは、別の何かに書いてるの?」
 不二のその質問に、内心、俺は胸を撫で下ろした。もしかしたら、バレてるのかもしれないけど。とりあえず、機嫌を損ねることはなかったらしい。
「頭の中だよ。そうすれば、資源の無駄遣いをしなくて済むしね」
「……ふぅん」
 納得してくれたのかどうか解からないが、不二は頷くと、俺から手を放した。カメラを覗き、写真を撮りはじめる。
「じゃあ、僕がイイコト教えてあげようか」
「……いいこと?」
「うん。僕の弱点」
 不二の言葉に、慌てて俺はノートを取り出した。その仕草にか、不二が微笑う。
「メモの準備はいい?一度しか言わないからね」
「ああ。」
 頷き、ボールペンのインクの出を確かめる。よし。バッチリだ。
「僕の弱点は…」
 言いかけて、不二はカメラごと俺の方を向いた。また写真を撮られると思ったけど、今はそんなことに構っている余裕はない。息を呑み、ノートを見つめながら、不二の次の言葉を待つ。
「乾、だよ。」
「……え?」
 不二の言葉に驚いて、俺は顔を上げた。瞬間、写真を撮られる。
「うーん、今の顔、いいね。」
 カメラを下ろし、ニヤリと笑う。もしかして、また、騙されたのか、俺。
「……不二、お前なっ…」
 溜息交じりに言う唇を、いきなり塞がれる。唇を離すと、また、不二が微笑った。
「ホントのことだからね。ちゃんとメモしといてよ」
「……あ、ああ。」
 頷くと、俺はノートに書き込んだ。それを確認すると、不二は写真撮影を開始した。
 なんか、俺、例え手塚に勝てる日が来たとしても、こいつには一生勝てない気がする。
 楽しそうにシャッターを切る不二を見て、俺は幸せな溜息をついた。





ふへへへへ。バカップル。
不二乾の不二は、白く我侭を目標に。(ゲームシリーズは除く)
つぅか、ただ単に不二に「乾、へんたーい」って言わせたかっただけ(爆)
いいのいいの。変態も褒め言葉だからv
キモイ!変態!ストーカー!全て乾への褒め言葉vV
情けない乾くんが好きです。

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