すぺしゃる・でい


「――と、言うわけで」
 言うと、不二は嫌がる俺を無理矢理コートまで引っ張って行った。すでに用意しておいたのか、そこには俺のラケットが置いてあり、渋々それを持たされる。
 ……何が、と、言うわけで、だ。
 ココロの中で舌打ちしてみる。それを知ってか知らずか、不二は俺と眼が合うと楽しそうに微笑った。
「特別に僕が乾と試合をしてあげるよ」
 クスリと微笑うと、不二は素早く俺の唇に触れた。
「……っ、おい!」
 誰か見てたらどうするんだ、と言おうとしたが、不二は俺に背を向けるとスタスタと自分のコートへと歩いていってしまっていた。声を張り上げる気力もない俺は、仕方がなく吸い込んだ息を溜息として吐き出した。それを見た不二が、また、微笑う。
「そんなに面倒臭がらないでよ。言ったでしょ、今日は特別。僕が本気出してあげるよ」
 『本気』という言葉に思わず反応してしまう。
「本当か?」
「ホント。」
 不二は頷くと、コート隅にあるベンチを指差した。そこには(いつの間に持ってきたのか)俺のビデオカメラが置いてあった。
「データ、取ってもいいよ。取れるならね」
 言われるまでもなく、俺はベンチへと駆け出すと、ビデオカメラを設置した。これは最近わかった事だが、不二のデータを正確にとる事が出来ないのは、どうやら不二が本気を出していないかららしい。どの試合も軽く流す程度だから、全くといっていいほど癖が出ないし、自分らしくない動きも出来る。どういう風の吹き回しか知らないけれど、これは願ってもないチャンスだ。
 …まあ、データが取れたからといって、試合に必ず勝てるわけではないけれど。それよりも、これで青学レギュラーのデータが総てそろう。そっちの達成感の方が俺には嬉しい。
「準備、できた?」
 俺がコートに戻ると、不二はボールを投げてよこした。
「サーブ権、キミにあげるよ」
「……随分と余裕だな」
「うん。まぁね」
 含んだ笑みを見せると、不二はラケットを構えた。途端、眼つきが鋭くなる。その眼に一瞬、怯みそうになったが、俺は眼を瞑ると大きく深呼吸をした。気を落ち付け、神経を集中させる。
「……行くぞ」
 眼を開き、目標を定めると、俺はボールを高く放った。


「0−6だね」
 脱力したようにコートに仰向けに寝そべっている俺を覗き込むようにして、不二は言った。息が切れているわけじゃないが、言葉が出てこない。
「どう?いいデータ、取れた?」
 俺の隣に腰を下ろすと、不二は同じようにして仰向けになった。
「……こんな短時間で、取れると思うか?」
「さぁね」
 楽しそうに言う不二に、俺は溜息を残し、立ち上がった。とりあえず、ビデオを止めないと。
「元気そうだネ。もう一試合、やる?」
 背後から、楽しそうな声が聞こえる。聞こえないように、俺は舌打ちをした。
 確かに、疲れてはいない。というか、疲れる暇すらなかった。試合は一方的かつあっという間で。
「やめておくよ。これ以上やってもデータは取れそうにないしな」
 不二に背を向けたままで言った。こんな試合。やっても空しくなるだけだ。
「そう?……勿体無い、ねっ」
「おわっ!?」
 突然背後で声がしたかと思うと、不二が俺の背中に飛びついてきた。よろけそうになるのを、慌てて堪える。
「おまっ…危ないだろ」
「ダイジョーブだよ。乾、今ムキムキだもん」
「……なんだそれは」
「頼りになるってこと」
 耳元で囁くと、クスリと微笑った。溜息を吐き、姿勢を正す。不二は強く俺を掴むと、そのままぶら下がった。そのせいで、俺の首には不二の腕が食い込んで…。
「不二。苦しいんだけど」
「僕は楽しいけど?」
「……あのなぁ」
 足をぶらぶらとさせ、完全に楽しんでいる不二にオレは今日何度目かの溜息を吐くと、後ろに手を回し不二を負ぶった。
「ほら、じゃあこれ持って」
 不二に、ビデオやらラケットやらを渡す。
「うん」
 大人しく不二はそれを受け取った。しかし、手に持っているのは不二でも、負荷がかかるのは俺。なんだかなぁ。
「で。なんで急に試合なんかする気になったんだ?」
「んー。わかんない?」
「不二の考えてることなんて、わかるやつはいないと思うぞ」
「ふぅん」
 呟くと、不二が頬を寄せてきた。その温もりと、微かに感じる吐息がくすぐったい。
「ねぇ、乾」
「何だ?」
「今日、僕ん家こない?みんな出掛けちゃってて、誰も居ないんだ」
「………っ!?」
 不二の言葉を理解するまでに、かなりの時間がかかった。ずれたタイミングで驚くと、不二は楽しそうに微笑った。
「乾、耳まで真っ赤になってるよ」
「………お前が変な事言い出すからだろ?」
「変な事とは非道いね。折角2人っきりで誕生日を祝おうと思ったのに」
「…………は?」
 振り返ろうとした俺の頬に口付けをすると、不二は腕を解き、俺の前に立った。俺の首に腕を回し、唇を重ねる。
「今日は6月3日。乾貞治くんの誕生日だよ」
「………ああ、そうか」
 なるほど、と手を叩く俺に、不二は軽い溜息をついた。俺の隣に並ぶ。
「本当に知らなかったの?」
「あ、ああ。ここのところ忙しくてね」
 俺の言葉に。不二の顔が曇る。
「駄目だよ。他人の健康管理もいいけど、もっと自分の事、ちゃんとしないとね」
 海堂のことを言っているのだろうか。不二の言葉に少しだけ棘が見えた。ったく。扱い辛いな。
「悪かった。これからはちゃんとするよ。自分の事も、不二の事も」
 言うと、俺は不二の肩を抱き、引き寄せた。不二が、腕にしがみつく。
「じゃあ、今日は僕ん家に来てくれるの?」
「もちろん」
 頷く俺に、不二は嬉しそうに微笑った。
「良かった。じゃあ、ケーキ買って帰ろうよ」
「そうだな」
「乾」
「ん?」
「ハッピーバースデイ」
「……ん。サンキュ」





乾くん、誕生日オメデトウ。
わけわかんない話でごめんなさい。。。

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