ピ、と携帯のアラームは0.8秒鳴っただけで停められてしまった。カタン、と音を立ててそれが床に落とされるのを、俺は半ば放心状態で眺めていた。
「……これが、誕生日にすることか?」
何とか掻き集めた意識で声にするが、上手く言葉になってはくれなかった。呼吸を整えようとして、胸が大きく上下する。そこに耳を当てていた不二は、顔を上げると、ふふ、と微笑った。
「凄いでしょ。零時ジャストの、僕から君への贈り物」
「っ。」
何の予告も無くそれを抜かれ、俺は小さく声を漏らした。満足そうに、青い眼が細くなる。
「ねぇ、嬉しい?」
言って、俺の口を塞ぐ。深く甘いそれに、これから冷めて行く筈だった熱がそれとは逆に上昇して行くのを感じて、俺は身悶えた。だが、既に体力を奪われてしまった俺にはどうすることも出来ず。かわりに言葉で抵抗しようとしたが、それは更に不二の侵入を許すだけの結果になってしまった。
長すぎるキスからやっとのことで解放される。大きく深呼吸をしている俺に、不二はクスクスと微笑うと、額に唇を落とした。そのまま、体重を掛けるようにして俺を抱き締めてくる。
「ね。何で答えてくれないの?」
問いかけながら、触れるだけのキスを何度も繰り返す。このままいいようにされるのも少し癪だから、俺は不二の頭を掴むと、自分から深く口づけた。
「……いぬい?」
「不二がそんなことばかりしてくるから、何も返せないんじゃないか。話をする間くらい、与えてくれないか」
少し驚いたような表情の不二の額をグッと押し、体から離す。そのことに不満そうな表情に変わった不二に、俺は溜息を吐いた。咳払いをし、不二を見つめる。果たして、これから言おうとしている言葉が、相応しい台詞なのかどうかが、微妙な所なのだが。
「う、れしいさ。ありがとう」
言いながら、どんどん顔が赤くなっていってるような気がして、言い終わると俺は顔を背けた。顔、赤いね。その所為で顕わになった耳に、不二が息を吹きかけるようにして囁く。
「乾、誕生日、おめでとう」
俺の顎を掴み、自分の方を向けさせると、不二は微笑ってまたキスをした。
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