魔法


 スポーツテストの順番待ち。グラウンドに出た不二は、その場にしゃがみ込んだ。砂を集め、掌に入れる。それを高く上げ、隙間からさらさらと溢す。少し眩しそうに、不二は砂を見つめていた。何度も、繰り返す。
「……不二。何やってんの?」
 隣にしゃがみ、不二の指の隙間から零れる砂を見つめる。
「うん」
 砂いじりに夢中なのか、不二は頷いただけだった。さらさらと、砂が零れ落ちる。
 不二がしていることの意味を知りたくて、俺は暫くその砂を見つめていた。すると、突風が吹いて、それが眼の中に入った。
「痛っ」
 眼を瞑り、俯く。暗い視界の中、ごめん、と隣から声がした。
「英二、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。これで失明したら、不二のせいだかんね」
「そしたら、僕が一生英二の面倒見てあげるよ」
 不二が言うと冗談に聴こえなくて、俺は一瞬ぞっとしてしまった。冗談だよ、という笑い声と共に、腕を引かれる。
「どうせ面倒を見るなら、手塚が良いしね。英二だって、大石に面倒見てもらいたいでしょ?」
「不二っ」
「第一、それくらいじゃ失明しないって。ほら、立って。水道まで連れてってあげるから、目、洗おう?」
「……バカ不二」
「うん。ごめんね」
 まだちゃんと目を開けることが出来ない俺の腕を掴み、自分の肩に回すと、不二は水道に向かって歩き出した。途中、こんなところ大石や手塚に見られたら怒られちゃうかな、と微笑いながら。

「そういえばさ」
 不二が貸してくれたタオルで顔を拭くと、やっと視界が戻ってきた。隣で宙を仰いでいる不二に問いかける。
「何?」
「さっき、何やってたの?」
 さっきって?と不二の目が俺に訊き返す。俺はタオルを返すと、数歩先の所でしゃがんだ。
「不二が砂いじりなんてさ、なんかちょっと意外」
 渇いた砂を集め、握り締める。
「ずっと見てたけど。何が楽しいんだか、俺にはさっぱりわかんなかった。んで、わかんないでいたら、失明した」
 拳を高く突き上げ、風向きに注意をしながらさらさらと砂をこぼす。失明はしてないでしょ、と微笑いながら俺の隣にしゃがむと、不二はまた眩しそうな眼をしてその砂を見つめた。
「なぁ。こんなのの何が楽しいの?」
 空になった掌。両手を合わせ、僅かに残っている砂を払う。見ると、不二は自分で砂を集め、それをさらさらと宙に舞わせていた。
「楽しいっていうか。綺麗じゃない?」
「……キレイ?」
「そう。太陽の光を反射してさ、キラキラ光ってる。綺麗だと思わない?」
 よく見てみなよ。俺に向かって微笑うと、不二はもう一度掌からさらさらと砂を溢した。
 確かに、不二の手から零れ落ちる砂は、魔法の砂でもあるかのようにキラキラと光っている。
「ね。綺麗でしょ?」
「うん。まあ…」
 楽しそうに微笑う不二に、俺は曖昧に返した。どうしたの、と言う眼で不二が俺を見つめる。俺はそれを無視すると、不二と同じように砂を撒いてみた。だけど、不二がやったときみたいな輝きは見られない。
「……不二ばっか魔法使いみたいでズルイ」
 ボソッと呟く。その意味を理解したのだろう。不二は、ふふ、と意味深に微笑った。俺の手を引き、立ち上がる。
「そっか。魔法使いか。それも良いかもしれないね」
「……不二?」
「それでは、魔法使い不二周助が、菊丸英二くんに魔法が使えるようになるコツを教えてあげよう」
 調子をつけて言うと、不二はそのまま俺の手を引き、そろそろ順番の回ってくるグラウンドへと向かって歩き出した。少し遅れて、俺も歩き出す。
「大切なのは、ココロ。気持ちひとつで、どんなモノでも綺麗に輝く宝物になるんだ。魔法が使いたかったら、見方を変えてみなよ。きっと、英二の周りにあるもの総て、キラキラと輝きだすから」
 俺を見て、不二が微笑う。それを合図にしたかのように、心地いい風が頬を掠めていった。
「んー。いい風」
 俺から手を離し、大きく伸びをする。その姿は何も無いのにも関わらず、凄く楽しそうで。
「これも、不二の魔法?」
 少しだけ羨ましそうに訊く俺に不二は目を合わせると、今に英二も使えるようになるよ、と微笑った。





不二菊ではないよ。3-6(不二+菊丸)と不二菊はアタシの中では別ものです。
だって、不二塚、大菊(菊大)前提だし。
365題で思いついたネタ。『キラキラヒカル』というやつで。
スポーツテストの待ち時間って暇よね。もうやらないから良いけど。
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