トクベツ


「不二ぃ。これ、ちょーだい」
 僕の机からシャープペンを持ち出すと、英二はそれを高く掲げて言った。
「何。また始まったの?」
 ガレージセール。まぁ、ここはガレージじゃないし、売買をするわけでもないんだけど。
「駄目?」
「駄目じゃないけど…もう、それで今月入って三本目だよ?そんなにシャーペン持っててもしょうがないでしょ」
「しょうがな、く、は、ないって」
「本当にそう思ってるの?」
「……だってぇ。不二の持ってるもんって、なんか特別って感じがするんだもん」
「まぁ、別にいいけど」
「やりっ」
 そう、今月に入ってシャープペンは三本目。けど、他にも英二はうちに来るたびに何か最低一つは持って帰る。
 余計なものをほとんど持たない僕にとって、ものをあげてしまうのは結構きついことだったりするんだけど。
 まぁ、こういう嬉しい顔されると、なかなか、ね。
 それはいいとして。そういえば、こうして英二が僕から奪っていったものたちを、学校だとかなんだとかいった場所で、見たことがない。
「不二っ、この消しゴムもちょーだい」
「いいけど。……ねぇ、英二」
「うん?」
「僕から貰ってったもの、ちゃんと使ってる?」
「えっとー」
「使ってないんだ」
「つ、使ってるよ」
「怒らないから。正直に言ってごらん?」
「………ごめんなさい」
 しょんぼりと頭をさげて謝りながら、それでも貰ったものは離さない英二に、僕は微笑った。
「怒らないって。でもじゃあ、貰って、どうしてるの?」
「飾って、る」
「は?」
「ごめんなさいっ」
 優しい声で訊き返したはずなのに。英二は頭を竦め、両手を額の上で交叉させると、窺うように僕を見上げた。その姿はまるで、悪戯を見つかった小学生。
「だから、怒ったりしてないから。ほーらっ」
 だから僕も、小学校、というより、幼稚園の先生っぽい口調で言い、笑顔を見せた。
「ホントに?」
「本当。だから、飾ってるってどういうことなのか。もうちょっと詳しく教えてくれないかな?」
「うん」
 本当に、幼稚園だとかそのくらいに戻ったみたいだ。
 英二はまだ僕を疑いながらも頷くと、促されるままに腰を下ろした。手の中で、僕から貰ったシャープペンと消しゴムを転がす。
「さっきも言ったけど。不二のもんって、特別って感じがするじゃん」
「……そう?」
「すーるーのっ。で、こうやって、不二の部屋で見ると、キラキラして見えんのに、うちに帰ると、なーんか普通のシャーペンとかに戻ってんの」
「それで、飾ってるの?」
「俺が持ってっからいけないのかな、とか思ってさ」
「で?」
「……けど、相変わらず」
「そんなことだろうと思った」
 膝を抱えるようにして丸くなった英二に、僕はまた笑った。その手から、元は僕のものだった、今は英二のシャープペンと消しゴムを受け取る。
「英二。今は?」
「へ?」
「ほら。今、僕が持ってるの。特別?」
 英二の目の前でそれを左右に振ったり高く上げたりしてみると、英二の顔も同じようにして動いた。それが、なんか、猫みたいで面白い。
「特別っぽい、かも」
 ぼうっとした口調で言うと、英二は猫みたいに僕の手からシャープペンと消しゴムを奪った。それを掲げて、溜息を吐く。
「けどやっぱ、駄目だ。ほら、俺が持ったらやっぱ、普通だ。……ってことは、もしかして」
「うん?」
「不二のもんが特別なんじゃなくて、不二が特別だってこと?」
「さて。どうだろ」
「だとしたら、俺が持っててもやっぱ意味ないってことだよね」
「じゃあ、返す?」
「うんにゃ。貰っとく」
「そ」
「ん」
 頷くと、英二は大切そうにそれをバッグにしまった。嬉しそうに、僕を見る。
「何?」
「不二って、魔法使いみたいだなーって思ってさ」
「そう?」
「うん。んで、そんな魔法使いと友達な俺って、すげぇなって思ってみたり」
「……じゃあ、そんな風に思ってくれる英二と友達な僕って、すっげぇ倖せもの?」
「そうなんじゃん」
「あ。頷くんだ」
「まぁねん」
 少し照れくさそうに笑って、ぽんぽんとバッグを叩く英二に、何だか僕も照れながら笑った。





365題『店』のコメントから。
不二の魔法のショップっていうか、なんていうか。
まぁ、隣の花は赤いという話。
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