公園にて。


「へぇ…。いつもこんな所で練習してるんだ」
 突然、背後からかけられた声に驚いて、おれは振り返った。
「…不二、先輩」
 おれと眼が合ったのを確認するように、先輩は微笑った。
「どうしたんすか?こんな時間に」
 部活は、とっくに終わっている。だからおれは独りで練習をしているのだが。
「君のことが気になってね。一緒に帰ろうかなって」
 いいながら、近くにあったブランコに腰をおろした。どうぞ、と眼で促され、おれは素振りを続けた。
 何分経ったか解からないが、おれが素振りを終えるまで、先輩はずっと黙っていた。黙って、おれを見ていた。その視線は、おれの背中が焦げるんじゃないかというくらい。背を向けていたから、先輩は気付かなかったみたいだが、その時のおれの顔は、恐らく真っ赤だったと思う。
「今日、越前とかいう一年に負けたじゃない?」
 はい、とおれにタオルを手渡しながら先輩が言った。その一年の名前が出てきたことに、少しだけ腹を立てる。
「だから、気を落としてるんじゃないかって思ってさ」
 言いながら、おれの手を引く。おれは先輩にされるままに、ベンチへと腰をおろした。
「……別に。気を落としてなんかないっすよ」
 宙を仰ぎ、2,3度深呼吸をする。と、先輩は声を上げて笑い出した。
「…何が可笑しいんすか」
 依然として顔は宙を向いたまま、眼だけで先輩を見る。普通の奴等ならおれの本心に関係なくビビってしまうのだが。先輩はおれと眼が合うと、優しく微笑った。
「素直じゃないね、ホント」
 言うと、先輩はおれの前に、膝をつくようにして座った。
「……これ」
 先輩が差したのは。傷ついたおれの膝。手当てをせずに、ずっと練習していた所為で、血はまだ止まっていない。まあ、そんなこと、おれにはどうでもいい事だが。
「駄目だよ、もっと自分を大事にしなきゃ」
 心配そうな声で言い、傷にそっと舌を這わせる。
「…っ先輩!?」
 驚きに眼を白黒させるおれに、先輩は顔を上げると微笑って見せた。
「僕が治してあげるよ」
「なっ…」
「知らないの?唾液ってね、殺菌作用があるんだよ」
「そういう問題じゃ…」
「それにね。僕、血の味って嫌いじゃないんだ」
 そう言うと、おれに構わずに、残った右足の傷も舐め始めた。
「っつ……。先輩、吸血鬼、みたいっすね」
 もとから持っていた熱とは別の熱が湧き上がってくるのが解かる。それがバレないようにと悪態をついて見せるが、先輩にはそれは通じないみたいだ。
 顔を上げ、おれに見えるように自分の唇についた血液を舐め取ると、クスクスと微笑う。
「気に入った?」
「…誰もそんなこと言ってないじゃないですか」
 言って、先輩から眼をそらす。先輩は小さく溜息を吐くと、おれの隣りに座った。肩に手を回し、顔を近づけてくる。耳に、吐息がかかるくらいまで。
「ねぇ。僕の前でくらい、素直になってよ」
 耳元で囁かれ、おれはたじろいだ。運動をしているわけじゃないのに、再び、心拍数が上がっていく。
「海堂。僕の事、好き?」
 硬直しているおれに、愉しそうに先輩が囁く。こういう時の先輩は、何よりも怖いんだ。
「す…好きっすよ」
 顔を背けたままで、おれは答えた。が、先輩はそれでは許してくれないらしく、オレの顎を掴むと半ば強引に自分の方へと向けさせた。
「ちゃんと僕の目を見て言って」
 蒼い眼で見つめられて、おれは言葉を失った。綺麗で真っ直ぐな眼。先輩はそれを否定するけど、おれはこの眼が好きだって思う。魅せられたのは、他でもない、この眼。
「どうしたの?ちゃんと言ってよ」
 おれがその眼を好きなことを知ってる先輩は、クスクスと微笑いながら言った。
 ここまで見抜かれているんだから、これ以上何かを隠しても無駄だろう。
 おれは深呼吸をすると、先輩を見つめ返した。
「おれは、先輩が、好きです」
 小さな声だけど、届くようにはっきりと言った。嬉しそうに、先輩が微笑う。
「うん。僕も。海堂の事、大好きだよ」
「わぁっ…!!」
 突然、先輩に抱きつかれ、バランスを崩したおれはベンチから落ちてしまった。背を打った痛みに、顔を歪める。
「あはははは。ごめんごめん。大丈夫?」
 おれに覆い被さるような態勢で、先輩は微笑った。
「…大丈夫っす。だから、早く退いてくれないっすか?」
 言いながら、おれは先輩を押し退けようとした。が、逆にその手を捕られてしまった。
「…先輩?」
「海堂って、可愛いよね」
 クスクスと微笑いながら、先輩は身体を倒した。捕らえられた手が、地面に押さえつけられる。
「なっ…何考えてるんすかっ」
 その笑みから感じる、嫌な予感。普段は当たらないのに、こういった場合にだけ当たるんだ。
「大丈夫。誰も見てないって。それに、ここは公園だよ?」
 案の定、先輩は天使にも悪魔にも似た笑顔を見せると、おれに口付けた。





友達にリクエストされて。書いてみました。不二海を。
しかし、薫ちゃんはやっぱり乾さんが相手ぢゃないと駄目ですネ(←なら書くなよι)
でも、吸血鬼な不二。意外に好きかも(笑)
不二は常に妖しく怪しく色っぽくですから(笑)

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