Secret Garden


「おはよう、海堂」
「……不二先輩。…はよっす。」
「6時30分、か。毎日時間ピッタリだね。朝練前なのに、疲れない?」
「……そーゆーアンタこそ、毎日この時間ここにいるじゃないっすか。暇人なんすね」
 何度か深呼吸をし、海堂は出されたタオルを受け取った。蛇口を捻り、顔を洗う。その様子を不二は微笑みながら見つめる。
「暇じゃないよ。僕って結構読書家だから」
 顔を洗い終え隣に腰を下ろした海堂に、不二は持っていた本を揚げて見せた。
「へー。」
「何?その反応は」
「別に。ちょっと意外だなって思っただけっす」
 見つめる不二に少しだけ顔を赤くすると、海堂は照れたように顔を背けた。
「この本、もうすぐ読み終わっちゃうんだよね。今度越前くんのところにでも行って借りてこよっかな」
 『越前』という単語に、海堂は過剰なほどの反応を見せた。
「……何?」
「普通に、図書館って言ってくれません?」
 少しだけ、口調と眼つきがきつくなる。
「あはははは。ごめん、ごめん」
 けれど、不二にはそれが通じるわけもなく。受け流すように優しく微笑うと、目の前で両手をあわせて見せた。
「…別に、いいっすけど」
 むくれたように言うと、海堂はジャージを羽織った。
「もう、行く?」
「そろそろ時間っすから」
「…君は本当に几帳面だね。もしかしたら乾以上かも。彼はあれでいてルーズなところが在るから」
「……あんま、あのヒトと比べて欲しくないんすけど」
「あはは。ま、いいじゃない。さ、行こっか」
 怒ったように言う海堂に笑みを見せると、不二はその手を取った。
「………っす。」
 照れながらも、その手を握り返す。
 いつの間にか日常になった朝の光景。
 いきなり自分の世界に侵入してきた不二に初めは戸惑っていたが、それもいつの間にか気にならなくなった。寧ろ、今では不二がいないと多少の不安をも感じるようになっていた。
 いつから、何のきっかけでこういうなったのかは解からないが、きっとこういう関係を恋人同士というのだろうと、海堂は思った。
 だから。自分の前では他のヒトの話をして欲しくなかった。越前の名前に反応したのもその所為だ。不二の方はというと、自分が越前に負けたことを未だ気にしているからだと思っているのだが。
 だから海堂としては、越前だけではなく乾の名前も出して欲しくはなかった。ただ、そこまで敏感に反応を示さなかったのは、乾と不二の関係がはっきりとしているから。単なる友達だと。
 越前については、良く判かっていない。いきなり現れて、自分に勝って。それから…。不二は何かと越前を話題に上げることが多い。部活中、一緒にいる姿を良く見かける。噂では、越前は不二に気があるんだとかなんだとか…。
 海堂はマイナスの思考を振り払うように頭を振った。横目で不二を見つめる。
 そうだ。全部このヒトが悪いんだ。このヒトが、おれたちの関係をはっきりさせないから。
「……何?どうしたの、海堂?」
 突然、自分の方を向いたものだから。不二と目が合ってしまった。
「あーっ、別に、何でも…」
 おれたちの関係って何ですか?などと訊けるはずもなく、海堂は顔を赤く染めると、わざとらしく不二から目をそらせた。
 不二が溜息を吐き、足を止める。
「……不二先輩?」
「全く。海堂はいつもそうだよね。言いたいことがあってもいっつも飲み込んでさ。何で?僕が先輩だから?」
 手を放し、怒ったように言う不二に、海堂はたじろいだ。どうしていきなり不二が怒ったのか、解からない。
「……いや、別に、そういうわけじゃ…」
「じゃあ、どういうわけ?」
「そ、それは…」
 俯くと、海堂はそのまま口篭もった。今までのことに関しては、煩わしいことを嫌うという性格と、素直になれないという性格の所為であるのだが。今回のことは…今の先輩と自分との関係に自信がないから、などとは言えるはずがない。
 黙っている海堂に、不二は溜息をつくと再び歩き出した。今度は、ひとりで。それに気付いた海堂も慌てて後を追う。
「……僕たち、コイビト同士だと思ってたのに。海堂は、違うんだ」
 ボソリと、不二が呟く。
「………え?先輩、今、なんて…」
 訊き返す海堂に、不二は足を止め振り返った。その眼は、少しだけ愁いを帯びている。
「僕は、海堂、君が好きなんだよ。……で。君も僕を好いてれてるんだと思ってたけど。どうやら、それは僕の勘違いだったみたいだね」
「……っじ、先輩」
「迷惑だったら、ハッキリ言ってくれれば良かったのに。……まあ、いいや。明日からはもう待ち伏せなんかしないよ。ごめんね、今まで気づかなくて。さっき言ったことは忘れて」
 海堂の言葉も待たず、哀しそうに微笑うと不二は背を向けて歩き出した。歩調を速めて。
 海堂はというと、どんどん小さくなっていく不二の背中を呆然と見つめ、その場に立ち尽くしていた。
 誰が誰を好きだって?迷惑?何?もう来ない?何だ、ごめんって……。
「……違う。」
 おれは、不二先輩がっ…。
「っ不二先輩!」
 叫び、走ると、海堂は不二の手を捕った。
「……海堂?」
 目が合っても、今度はそらさない。
「違うんです。訊いて、ください」
 呼吸を整える海堂に、不二は黙って頷いた。
 深呼吸を、ひとつ。
「おれも、アンタが好き、だ。」
「……かいどう?」
「おれも、ずっとアンタとの関係を『恋人同士』だと思ってました。ただ、不二先輩がハッキリと言ってくれなかったから。そう思ってても、ちょっと…凄く、不安だったんです。でも、訊けなくて…」
 そこまで言うと、海堂は不二を見つめた。不二の表情がどうかわるのか、妙な緊張が走る。思わず、繋いだ不二の手を強く握りしめてしまう。
「そう。」
 呟くと、不二は海堂の手を握り返した。優しく微笑う。
「ごめんね。僕がハッキリしなかったからいけなかったんだね。ずっと、君を不安にさせてたんだ」
「っでも、おれも…ちゃんと言わなかったから…」
「じゃあ、もう大丈夫だね。今日からは僕と君は恋人同士だ。」
 言うと、不二はまた微笑った。
「っす」
 海堂も、頬を赤らめながら微笑い返す。
 そうして、二人はまた歩き出した。しっかりと、互いの手を握り締めて。
「あ。そうだ」
 突然、不二が呟いたかと思うと、空いている方の手で海堂の頬を包み、一瞬だけの口付けをした。
「…………。」
「恋人同士なんだし、いいよね?」
 嬉しそうに、不二が微笑う。
「……っす。」
 その綺麗な笑顔に、海堂は頷くしかなかった。





不二海だと不二が妙にお兄ちゃんちっくだね、って言われました。
あれ?周裕は?(笑)
以前に書いたモノなので、書き方が多少変わってますね。
やっぱり、三人称は苦手です(昔はこっちの方が楽だったのになぁ…)
タイトルはテキトーで。(近くにあったCDが大野愛果さんのそれだったで/笑)
いやいやいや。トレーニング場所=庭ってことで。コジツケ?あはっ。

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