図書室×策略×たまにはね


 何処にいるんだ?ったく。今日は部活がないから一緒に帰ろうって、自分から言い出しておいて…。

「不二っ!何やってんだよ、こんな所で」
 おれは図書室の扉を勢いよく開けると、奥に座って本を読み耽っている不二に言った。
「しーっ、駄目だよ、大石。静かにしなきゃ」
 顔を上げ、不二は微笑うと、自分の唇に人差し指を当てて見せた。
「……あ。」
 その行為に、おれは我に返り辺りを見回した。幸い、図書室にはおれと不二を除くと、誰もいないようだった。確か、委員会の奴が1人来ている筈だけど。まあ、でも、誰もいなければ、それでいいか。
 安心したおれを見て、不二はまた微笑うと、隣に座れ、と促した。
「……大石、怒ってるの?」
 本を閉じ、頬杖をついておれを見る。一瞬、その綺麗な青い眼に見惚れそうになったが、これではいけない、と咳払いをひとつする。
「当たり前だろ。自分で誘っといて…」
 怒るおれをみて、不二はクスクスと笑い出した。
「…何が可笑しいんだよ」
「別に。可愛いなって思ってさ」
「かっ……」
 可愛い、か。
 おれは不二から目を逸らすようにして頬づえをつくと、聞こえるようにわざとらしい溜息を吐いた。
「…不二は、いつもそればっかりだな」
「そう?だって可愛いんだからしょうがないよ。それとも、大石は可愛いって言われるの、厭?」
 おれの左手を取ると、不二は自分の唇にそれを当てた。誰かに見られてるかもしれないと、おれは慌ててその手を振り解いた。
「あはははは。慌てなくても大丈夫だよ。今日は、越前くんが当番だから」
 言いながら不二がカウンタに視線を送る。それを辿って行くと、確かに、ニヤついた顔でこちらを見ている越前がいた。さっき、誰も居ないと思ったのは、どうやら間違いだったらしい。越前はおれと眼が合うと小さく手を振った。
「不二先輩。今日はもう誰も来ないと思うんで、俺、帰りますから。鍵、よろしくお願いします」
 帰り支度を整え、鍵を不二へ投げる。
「うん。そうしてくれると有り難いな」
 不二はそれを受け取ると、あとでジュースでも奢るよ、と付け加えた。
「あ。そうだ」
 扉に手を掛けた越前は、何かを思い出したように振り返る。
「…幾ら誰も居ないからといっても、あまり大きな声出しちゃ駄目っスよ。ここ一応、図書室なんスから」
「なっ…」
「解かってるよ」
 越前の言葉に驚いているおれを余所に、不二は手を振りながら返した。越前もそれにつられるようにして手を振り、部屋を出て行った。音もなく、扉が閉まる。
 さてと、と呟くと不二は再び本を開いた。
 何が起こったのか、よく状況を呑み込めずにいるおれに、不二は笑い声を上げる。
「大丈夫だよ。多分、越前くんが、出て行くときに『閉館』の札を立てといてくれるから」
「いや…だけど…」
「僕の周りって、結構女の子とかが煩くてね。読書に集中できなかったりするんだ。だから、越前くんが当番の時は、時々こうやって図書室を貸し切りにしてもらってるんだ」
 愉しそうに言うと、不二は読みかけの本に目を落とした。
 帰るんじゃなかったのか?とは思いながらも、滅多に見ることが出来ない真剣な表情で本を読む不二に、おれは何も言えなかった。それに、よくよく考えてみたら、一緒に帰るからといって何をするわけでもない。早く帰ればそれだけ、不二と早く別れなきゃいけないんだ。だったら。たまにはこうして黙って二人だけの時間を過ごすのもいいかもしれない。
 おれはノートを出すと、明日の分の予習をし始めた。

「よしっと。」
「ああ。終わった?」
 呟いてノートを閉じると、不二が急に口を開いた。その声に驚いて、身体が揺れた。
「そんなに驚かなくてもいいのに」
 微笑うと、不二は本をしまう為に立ち上がった。おれは暫くその背を追っていたが、本棚の陰に隠れてしまうと、小さく溜息を吐き、机に広がったノートや教科書を鞄へとしまい始めた。
 時計を見ると、あれから、一時間が過ぎようとしていた。早いもんだな。溜息を吐く。
 不二との無言の時間は、苦痛にはならなかった。というより、その雰囲気が心地良くさえ感じた。ずっとそうして居たいような…。でも、もう、帰るんだ。不二と別れなきゃならないんだよな。
 鞄を閉じると、おれはまた、溜息を吐いた。と…。
「おーいしっ」
 突然、後ろから抱きしめられ、おれは小さく声を漏らしてしまった。
「あはははは。大石、隙、有り過ぎ」
 笑う不二の吐息が、耳にかかる。おれは自分の心臓の音が少しずつ速くなっているのが解かった。気付かれないようにと、咳払いをする。
「お前が気配を絶ち過ぎなんだよ」
 悪態を吐くおれの耳元で、わざとらしく不二が微笑った。
「大石ってさ。照れるといつも咳払いするよね」
「………。」
「知らないとでも思った?僕たち、どれだけ一緒にいると思ってるの?」
 クスクスと微笑う不二に、おれは溜息を吐いた。頑張って繕っていた今までが、なんだか少し、無駄な気がした。
「知ってるんだったら知ってるって、何で言わなかったんだ?」
「言うわけないじゃない。だって、そういう時の大石って、凄く可愛いんだもん」
 また、可愛い、か。
「あのなぁ…」
 言いながら、回されていた不二の手を取る。
「おれは男なんだから、可愛いなんて言われてっ……」
 振り向きざまに重ねられた唇。驚いて目を丸くするおれに、不二は微笑った。
「大石、隙、有り過ぎだってば。もうちょっと気を引き締めてくれないと困るよ。そうじゃないと、他の奴に何されても、文句言えないよ?」
「……こんな事するのは、お前くらいだよ」
 隣に座る不二に、おれは半ば呆れた表情をして言った。そうかもね、と言って、不二がまた微笑った。
「そうだ。さっきの話だけど。可愛いって言われるの、厭?」
「……おれは男だぞ。そんなこと言われて嬉しいわけないじゃないか」
「そうかなぁ。僕は好きなヒトからだったら、嬉しいけどな」
 困惑気味の表情を浮かべる不二に、おれは微笑った。どうしたの?と不二が眼で問いかける。
「いや。不二って変わってるなって思ってさ」
「そう?僕には君の方が変わってると思うんだけどな」
 じゃあ変わったもの同士だな、と言って、二人で微笑った。
 普段にはない、ゆったりとした時間を感じる。たまにはこういうのも悪くない、と思う。
「……ところで。」
 急に、不二が真面目な顔をしておれの手を掴んだ。少しだけ、嫌な予感が身体を走る。
「今日はもう誰も来ない見たいだし。折角の二人っきりだし。久しぶりだし…」
 言うと、不二はおれに口付けた。長い口付け。唇を離すと、手を引かれ、おれは不二に抱き寄せられた。
「不二…?」
「たまにはこういうのも悪くない、でしょ?」
 耳元で囁く不二に、おれはさっき思ったことを取り消したい、と強く思った。





ハンター×ハンターかいっ!?というツッコミは、受け付けておりません(笑)
ついでに、これ、不二大ぢゃなくてもいいじゃん!というツッコミも受け付けておりません(爆)
但し、『変なもの同士』ぢゃなくて、変なのは不二だけだ!というツッコミは受け付けます(殴)
大石って、書きやすいでスね。彼視点は。ホント。 流石、青学の中で唯一まともな男!
……でもないか(笑)

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