ボクハキミガスキ


『気持ちなんてね、口に出さなきゃ伝わらないもので。伝わらなきゃ、どんなに想っていても、きっと、想っていないのと同じ。君も、そう思わないかい?』

「……ついてねーの」
 雨。午後になって、突然振り出した。当然、部活は中止。
 見事なくらいの土砂降り。で、クラスメイトはというと、みんな傘を持ってきていた。なんで?朝はあんなに晴れてたのに。……そう言えば、母さんが午後から雨が降るって言ってたような気もしないでもない。
 まあ、そんなことはどうでもいい。それよりも、今、俺の頭を悩ませてるのは、どうやって家まで帰るか、だ。
 生憎、家のものは誰もいない。天気予報を見てなかった俺は、当然、傘を持ってる筈もない。友達は俺が委員会で残ってる間に帰ってしまっていた。
「…俺も、まだまだだね」
 昇降口から雨雲に向かって呟いた。止む気配は一向にしない。どうやら、濡れて帰るしかなさそうだ。
 濡れないようにとテニスバッグを胸に抱えるようにしてもち、意を決して外へと飛び出そうとした。その時。
「越前くん?」
 背後から突然かけられた声に驚いて、俺は思わず転びそうになった。
「危ないっ」
 先輩に腕をひかれ、抱きかかえられる。
「大丈夫?」
 優しく微笑む先輩に、俺は自分の顔が赤くなっていくのが解かった。胸の鼓動も、少しだけ、速くなる。悔しいけど。
「不二先輩…気配を絶って近づくの、止めてくれないっスかね」
「あはははは。ごめんごめん。癖なんだ」
 癖?……嘘吐き。俺をおどかそうとしてわざとやってるくせに。いや、そんなことよりも…。
「手、離してくれません?」
 俺は先輩に抱かれたままだったことに気付いて言った。
「あー。ごめんごめん」
 けれど、先輩は同じ調子で言うだけで、一向に手を離そうとしない。
「だから、離してくださいってば」
 自分の速まった心臓の音がその胸越しに聞こえてしまいそうで。聞かれたくなくて。俺はその手を解こうとした。でも。
「いいじゃない。誰も見てないし。ね。もう少し、このまま」
 きつく抱きしめると、先輩は耳元で囁いた。その声に、俺は為す術を無くしてしまう。
「…ちょっとだけっスからね」
 赤くなった顔を見られたくなくて、先輩の胸に顔をうずめた。胸の高鳴りが聞こえないことを祈りながら。

「そう言えば、先輩は何でここにいるんスか?」
 胸に顔を押し付けてる所為か、少し、こもった声になる。
「そりゃあ、僕も学生だからね」
「いや、そうじゃなくて…」
 委員会が思ったより長引いた所為で、現在の時刻は17時を大分回ってる。
「あはははは。冗談だよ」
 笑うと、胸から振動が伝わってくる。ちょっとだけって言ったのに、このヒト、いつまでこうしてるつもりなんだろう。
「傘、持ってないんでしょ?」
「え?」
「一緒に帰ろうかなって思って。待ってたんだ、君のこと」
「………。」
 なんでこのヒト、俺が傘を持ってないこと知ってたんだろう。今なら、俺が傘を持ってないのは一目瞭然だけど。待ってたって言うからにはその前から解かってたってこと。でも、なんで?それとも、これも冗談のうち?
「今朝。朝練の時、傘、持ってなかったでしょ?」
「………見てたんスか?」
「うん」
「…乾先輩みたいっスね」
 部員のこと、いちいちチェック入れてるなんて。
「と言っても、別に、部員全員を見てるわけじゃないからね」
「………ヒトの心読むのも、止めてくれません?」
「解かっちゃうんだから、しょうがないよ」
 笑うと、先輩は俺の肩を掴んで身体から離した。
「僕は君が好きなんだ。だから、いつも、君だけを見てるし、君だけを、想ってる」
 ゆっくりと、一言一言を切りながら言う。真剣な眼で見つめて。こういった時は、必ず…
「ねえ、君は?」
 ほら、きた。
 またか、と、溜息を吐く。先輩は、俺の気持ちを知ってくる癖に、こうやって時々、確かめようとするんだ。
「ねえ、君は?」
 もう一度、問われる。いい加減にして欲しいと想う。俺は先輩みたいに想ったことを恥ずかしげもなく言えるわけじゃない。
「俺の気持ち、知ってるくせに」
 これだけヒトのココロを読めるんだから、一番強い想いが読めないはずはない。
「だから言って欲しいんだよ」
 少しだけ哀しそうに微笑うと、先輩は俺の方から手を離し宙を仰いだ。
「……僕は確かに君の考えてることを言い当てることが出来るかもしれない。けれどそれは、憶測にしか過ぎないんだ。それが偶然、君の考えてることと同じだっただけで。行動として現れない限り、事実にはならないんだよ」
「……どういう意味っスか?」
「ねえ、リョーマ。気持ちなんてね、口に出さなきゃ伝わらないもので。伝わらなきゃ、どんなに想っていても、きっと、想っていないのと同じ。君も、そう思わないかい?」
「………。」
「…なーんて。ごめんね、変なこと言っちゃって」
 そう言って俺を見た先輩は、いつもの笑顔に戻っていた。
 傘を差し、俺の方へと手を差し伸べる。
「さ、帰ろっか」
「………。」
「…越前、くん?」
 いつまでも黙ったままの俺を不思議に思ったのか、先輩は少し困った顔をした。
「何でもないっス」
 言って、俺はバッグを肩にかけると、先輩の手をとった。

 雨の中。帰り道を歩く。
 濡れないようにと、先輩が俺の方に傘を出す。だから。俺は一度手を離すと、自分の肩に先輩の手を回した。その体に、頬を寄せる。
 先輩はそれに最初は戸惑ってたみたいだったけど、満足そうに微笑むと、肩に手を回し、自分の方へと引き寄せた。
 そのまま、暫く無言で歩く。俺は、さっき先輩が言ったことを思い出していた。
 先輩の言ってることの総てはわからない。でも、言おうとしてることは解かった気がする。……このヒトは、多分、不安なんだ。
 俺は小さく溜息を吐くと、意を決したように、先輩の手を強く握った。
 何?と先輩が俺に視線を落とす。
「先輩。俺っ」
 つま先立ちになって、ぎゅっと目を瞑ると、先輩の唇に自分のそれを重ねた。
「……越前くん?」
 突然の行動に甲斐もなく驚いたようだ。先輩は目を丸くしたまま、俺を見つめている。
「俺も、周助が、好き。」
 それだけを言うと、驚いている先輩をそのままに、俺は視線を前に向けると、元のように腕を組んで歩き出した。引っ張られるようにして、先輩も歩く。
「越前くん、今の…」
「もう言わないっスからね」
 恥ずかしさから、少しだけ、怒ったような声になる。それが伝わったのか、先輩は笑みを溢すと、優しい声で呟いた。
「ありがとう、リョーマ」





甘いな。甘いよ。ホント。でも、それとなく、中学生っぽいでショ?(笑)
♪抱き合う〜たび〜に〜ほっら〜♪ ……という事で、チャゲアスです。【love song】です。好きなんですよ『君が思うよりも僕は君が好き』っていうフレーズが。
不二リョはポイントポイントで名前で呼ばせるのが好きなんです。バレないように、普段はちゃんと苗字で呼んでるんですけどね。
不二が相手だと、リョーマがこの上なく可愛いので、いいっスね。ホント。可愛いよ。アタシも抱きしめたいよ。
つぅか、不二くん、陰在りますね。やっぱり。

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