気がつくと、俺は押し倒されてて。見上げると、蒼い眼が俺を見つめていた。一瞬で捕らえられる。その眼に。
「知ってるよ。君が、僕の眼、好きだってこと」
優しく微笑と、一度だけ口付けた。顔が紅くなる。眼をそらしたかった。でも、逃げられるわけがない。例えが悪いけど、その眼に見つめられると、メデューサに睨まれたように、俺は動けなくなるんだ。
蒼い、綺麗な、眼。何よりも強く、何よりも儚い。その奥にあるものが知りたくて、多分、俺はこの人と一緒にいる。
「俺は、アンタの総てが知りたい」
優勢だと言わんばかりの笑みを崩したくて、挑発的な視線をぶつけてみる。でも。この人はそれをあっさりとかわして、また微笑うんだ。
「僕も、君のこと、もっと知りたいな」
そして、また口づける。息が止まるかと思うくらいの、長い口づけ。
きっとアンタは知らない。アンタにキスされるたび、俺の身体に電流が走ること。きっと、これが本物のキスってやつ。親愛の情で交わすものなんかとは質が違う。互いに愛し愛されてるってこと。
ねぇ。俺は本気でアンタのこと、好きなんだよ。こんなこと、教えてやったら、アンタはきっと喜ぶから。だから、俺は教えてやんないんだ。絶対。
やっとのことで唇が解放される。与えられる酸素に俺が咽ているのを見て、愉しそうに微笑った。
「ねぇ、知ってる?キスにはね、電流があるんだ。ホンモノの、キスにだけ。君とキスをするとき、僕はいつも感じてるんだ。小さな電流を。……ねぇ。君は何か感じないかい?」
そう言って、また唇を重ねた。電流が身体中を駆け抜ける。
「…じ、先輩っ」
「周助でいいよ、リョーマ」
「しゅうすけ…。」
言葉にしただけで、なんだか、照れる。名前を呼ぶことには、まだ慣れていない。呼ばれることにも。おかしな話だと思う。日本に来るまではそれが日常だったのに。
「俺も、電流、感じる。」
まだ、照れをひきずっているせいで、たどたどしい日本語になる。きっと笑われる、と思った。でも、俺の予想に反して、目の前の男は驚いた顔をしていた。
「……周助?」
俺が名前を呼ぶと、今度は顔を紅くした。嬉しい、と呟くと、そのまま俺を強く抱きしめる。
「え?ちょっ…周助!?」
「これって、以心伝心ってやつだよね。凄いね。凄いよ」
嬉しそうな声。俺は思わず吹き出してしまった。驚いた周助は身体を離し、どうしたの?と眼で問い掛けてくる。
「いや、アンタでも、そういうことで喜ぶんだと思って」
「……うん。そうだね。今までの僕なら考えられなかったかもしれないな。きっと、君のお蔭だよ」
「……俺、の?」
「そう。だって、リョーマと一緒なら、僕はなんだって嬉しいもの」
言うと、本当に嬉しそうに微笑った。その顔は普段から想像できないくらい幼くて。きっとこの人のこんな表情を見れるのは自分だけなんだろうな、なんて思うと、なんだか俺まで嬉しくなって。一緒に微笑った。
一緒にいればいるほど、見えてくる、新たな一面。もっと知りたいと思う。その眼の奥にあるモノを、もっと。もっと。
「ねぇ。アンタのその眼の奥に潜んでるものって、何?」
深海のような色をした眼を見つめ、俺は訊いた。一呼吸置いた後で、その眼が不敵に笑う。
「……情熱、さ」
「…………え?」
「……なんてね」
言うと、唖然としてる俺をそのままに、周助は声を上げて笑った。
「…………しゅうすっ…」
怒ろうと口を開けた瞬間、キスをされた。そのまま、抱きしめられる。服を通しても、その温もりが伝わってくる。もっと強く抱きしめていて欲しくて、俺はその背に腕を回した。
「ねぇ、きっと僕たち、何処へでも行けるよ」
耳元で囁かれ、俺は小さく声を漏らした。クスリ、と周助が微笑う。それが、なんが悔しくて。俺は周助の耳元に唇を寄せた。出来る限りの甘い声で囁く。
「じゃあ、連れてって」
「……え?」
「…駄目?」
言って、強くその身体を抱きしめた。
暫くの空白の後、耳元で周助が微笑ったのが解かった。
「いいよ。じゃあ、行こうか」
言うのと同時に、周助のひとさしゆびが俺の身体のラインを妖しくなぞった。
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