プレゼント


「……何、で、ここにいるんすか?」
 冬休みだというのに、もう引退しているというのに。想像もしなかった人が目の前に、コートの中にいる。一番、会いたかった人が。
 見間違いかと思って俺は何度か眼を擦った。
「どうしたの?越前くん。眼にゴミでも入った?」
 俺の肩に触れ、心配そうに見つめる。その姿は、見間違いでも幻でもない。
「不二、せんぱい…。」
 どうして、ここに?
 聞こうとしたとき、奥のコートから桃先輩が近づいてきた。…なんだよ。いいところなのに。
「驚いたか?不二先輩、今日はオレたちの練習を見に来たんだってさ。一緒に練習してくれるってよ。お前、打ってもらえば?」
 不気味な笑いを俺に向けると、不二先輩に向かって話し出した。
「きーてくださいよ。こいつ、不二先輩が決着つけないまま引退しちゃったもんだから、ずっとぶーたれてたんすよ」
「ふーん」
 二人してニヤつきながら俺を見る。
 …桃先輩…よけーなことを…。
 睨みつけると、桃先輩は口だけで、ばーか、といい、さっさとコートへと戻っていってしまった。マジで何しに来たんだ?あの人。
「……で。どうする?打つかい?」
 俺の頭をなでながら聞いてくる。ったく、いつまでも子ども扱いすんだから。でも、それもまんざら悪くない。悔しいから、その手、振り払うけど。
「当たり前じゃないっスか」
 振り払われた手と俺を交互に見つめ、苦笑した。
 前々から思ってたんだけど、このヒト、オレに接する時必要以上に微笑うんだよね。もしかして、オレに嫌われてるとか思ってんの?
「じゃあ、行こうか。お手柔らかに頼むよ。こっちは受験勉強で、身体鈍ってるんだから」
 ラケットとボールを持つと、先輩はまた微笑った。
「よく言うよ。先輩、推薦でもう合格決まってるんでしょ?」
「あ。知ってたんだ」
「乾先輩じゃくても、人気者の不二先輩の情報くらい嫌でも入ってきますよ」
 本当は、乾先輩からきいたんだけど。
 先輩は意味深な笑みを浮かべると、俺の肩に手を置いた。唇を寄せ、耳元で囁く。
「誕生日、おめでとう。」
「………え?」
 驚いて見上げる俺に、先輩は楽しそうに微笑った。
「僕が知らないと思った?」
「……りがとう、ございます」
 思いもしなかった言葉に、顔が赤くなる。俺は見られたくなくて、帽子を深くかぶりなおした。また、先輩が微笑った。
「そうだ。プレゼントに、今日はちょっとだけ本気を出してあげるよ。どう?」
「……っス」
 頷くと、先輩は肩から手を離した。
「サーブは君にあげるよ」
 言いながら、向かいのコートへと歩く。その後ろ姿に距離を感じて、少しだけ、淋しかった。
 その時、掴まれていた肩が熱くなっていたことに、俺は初めて気がついた。

「……とかなんとかいって、結局、全力でやんなかったじゃないっスか」
 部活の帰り道、先輩と二人、肩を並べて歩く。
 先輩が部活やってるときは、こんなこと、出来なかった。不二先輩の隣にはいつも手塚部長がいたから。そして、俺の隣には桃先輩が。
 でも、今はいない。今は、先輩と俺の二人だけ。
「ちゃんと本気出したじゃない。『ちょっとだけ』。」
 クスクスと微笑いながら、先輩が言った。そう言えば、ちょっとだけ、って言ってたような気も…。
「…ちぇっ。ズルイっスよ、先輩。そうやっていつも逃げて」
「でも、君にはちゃんと勝ったよ」
「なおさらズルイっス」
「あはははは」
 笑うと、微かに触れていた俺の右手を捕った。自分のコートのポケットに入れ、強く、握る。
「…不二、先輩?」
「悔しかったら、追いかけてみなよ」
 俺を見、優しい笑みを向けると、先輩は宙を仰いだ。
「僕に手が届くまで、追いかけてよ。僕は君に捕まらないように逃げ続けるから。いつまでも、どこまでも、追いかけて…。そうしたら、君と僕はいつまでも繋がっていられる」
 微笑っているけど、どこか、哀しそうな顔。胸が、痛む。
「……なんてね。気味悪いよね。でも、僕、君のことが好きだからさ。繋がってたいんだ。せめて、テニスだけでも、ね」
 先輩は僕に視線を戻すと、また、微笑った。
 ねぇ、今、何て言った?
「ずっと、好きだったんだ。君のこと。この気持ちは好奇心からのものだとばかり思ってたけど、そうじゃなかったみたい。部活を引退して、君と離れてみて、やっと解かったんだ」
 ごめんね、と繰り返すと、先輩はポケットから手を出し、放した。少しだけ、歩調を速める。
「……そうやって、いつも逃げるんスね」
 後ろ姿に呟くと、先輩は足を止めた。ゆっくりと振り返る。
「俺、まだ、なんもいってないっスよ」
「え?」
 先輩の手を捕ると、思いっきり引き寄せ、その耳元で呟く。
 身体を離すと、驚くくらい顔を真っ赤にした先輩の顔が目に入った。
「越前くん…」
 暫くの沈黙の後、呟くと、先輩は強引に俺を引き寄せ、抱きしめた。
「なっ、ちょ…先輩。誰か見てたら…」
「いいじゃない。せっかく想いが通じ合ったんだよ。ね。もう少し、このまま…」
 初めて聞く、高揚した声。俺は戸惑いながらも、その背に腕を回した。
「ねぇ、越前くん。誕生日のプレゼント、何が欲しい?今日はクリスマスイブだし、思いっきり我侭聞いてあげるよ」
 耳元で囁く。かかる息がくすぐったくて、俺は小さく笑った。身体を離し、どちらからともなく唇を重ねる。
「そうっスね。じゃあ、クリスマスを先輩と過ごすっていうのはどーっすか?」
 俺の答えに、先輩がクスリと微笑った。
「………じゃあ、これから家に来るかい?今日は誰もいないから――」





えへ。結局バカップルです(笑)
ここのところ、リョーマ君はイイコトなかったっすからね。ホント
たまにはこういうのばっかりでも良いかなって。
…実は、裏でひっそり桃リョ狙ってたりして(笑)
ももてぃろは「何やってんだろ、オレ」みたいな感じが好きです(酷っ)

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