ふりむいて抱きしめて


「…だから一人にはしないで…」
 背後から抱きしめると、彼はいつもそう呟く。その腕を振り解こうとすればするほど、その腕はいっそう絡みついて…。
 何とか腕を振り解くと、今度は涙目で訴えてくる。抱きしめて離さないで、と。
 やめてくれ。もう、うんざりなんだ。
 思いながらも言葉に出来ない自分が恨めしい。とっくに真実に気付いているのに。それでも、まだ、好きだなんて。
「ねえ、君は一体僕に何を期待してるんだい?」
 ベッドに座り、溜息混じりに言う。
「…俺だけを見つめていて欲しいんス」
 僕の頬に口付けをすると、彼は僕と向き合うようにして膝の上に座ってきた。僕の腕を取り、自分の背へと廻す。そうして、もう一度、今度は僕の唇に自分のそれを重ねてきた。
 いつもより積極的な彼に、唇を離した僕は苦笑した。
「冗談。君は手塚が好きなんだろ?その台詞は手塚に言うべきであって、僕に言うべきじゃない」
 言って身体を離そうとするけど。彼は僕にしがみつくと、耳元に唇を寄せてきた。
「ねぇ、不二先輩。俺はいつもアンタだけを見つめてるんスよ。だから、アンタにもオレだけを見つめていて欲しい」
 もう、何度も聞いた科白。これは嘘。僕は手塚の代わりなんだ。解かってる。解かっていても、微かな期待がグルグルと頭の中を廻るから。
「……リョーマ…」
 思わず、その小さな身体を抱きしめてしまう。
「ねぇ、キスしてよ。周助から…」
 欲情を掻きたてるように、彼が耳元で囁く。
「まだ、駄目だよ」
 湧き上がってくる熱いものを堪え、首筋に唇を落とすと、ゆっくりと彼の身体を倒した。そのまま黙って彼を見つめる。
「周助。キス、して。すぐにして…」
 潤んだ眼で訴えられ、僕は何かに導かれるように、彼に口付けた。どうせなら、いつまでも痕が残るくらいに。飛び切りに甘いモノをくれてやる…。

「これで、最後だよ。僕はもうここには来ない」
 服を着ると、ベッドでシーツに包まっている彼に呟いた。うつ伏せになり僕を見つめると、何故、とその眼で訊いてくる。
 解かりきったことを訊くのは卑怯だよ。
 軽い絶望。僕は微笑うと、彼の額に唇を落とした。
「独りの淋しさを埋めてくれる奴なら、僕じゃなくても他に幾らでもいるだろ?」
 言って彼に背を向ける。と、彼が僕の腕を掴んだ。今度は、僕が振り返り、眼で問う。
「アンタじゃなきゃ駄目なんだ。言ったはずっスよ。俺は、アンタだけ見つめてるって…」
 また、それ?
「僕だけを見つめてる?笑わせないで欲しいな。その科白、一体何人に言ってきた?僕は誰かの代わりになんてなりたくない。手塚が居なくて淋しいのは解かるけど。ごめんね。もう、限界なんだ。次からは別の奴に僕の分まで頑張ってもらってよ」
 言い放ち、彼の腕を解く。彼は驚いた表情をしていた。僕がこういう行動をとるとは思ってもいなかったようだった。少しだけ、胸が痛む。
「……じゃあ、何で、俺の誘いに乗ったの?」
 暫くの沈黙の後、彼が絞るような声で言った。僕はどう答えるか躊躇ったけど、溜息を吐くと、彼に笑顔を見せた。
「ずっと、好きだったんだ。リョーマのこと。」
「………え?」
「最初は嬉しかったけどね。君と一緒に居れるだけで。例え君が僕を通して手塚を見ていたとしても。……でも、もう限界。これ以上、何の可能性もないのに君の傍に居たら、僕は可笑しくなる。そうしたら、きっと君を傷つけてしまうよ」
「…………。」
「…………。」
「……しゅうす…」
「なんてね。今言ったことは忘れてくれていいよ。とにかく、僕はこれで君から手を引く」
 言ってもう一度だけ微笑ってみせると、僕は彼に背を向けた。今度は、彼は腕を掴まなかった。
 ドアノブに手をかけ、小さく溜息を吐く。彼は今、どんな表情をしているのだろう。
「…じゃ、ね。リョーマ」
 僕は振り返ると彼に言った。最後に彼の顔を観ようと思って。けれど、彼は顔を伏せっていて、どんな表情をしているのか解からなかった。
 仕方がない。僕は諦めると、溜息を残し、部屋を出た。

 あの後、彼がどうしたのか、僕は知らない。次の日は部活を休んでいたけど、その次の日にはいつも通り部活に出ていた。彼は今までと何ら変わりはなかったし、僕も変わりなく彼と接した。もともと、あの行為が自体別次元の出来事だった。彼と初めて身体を重ねた次の日もいつもと変わりなく過ごして。名前で呼び合うこともなかった。あの時間あの場所だけで存在した世界…。
 彼が今、どうしているのかも、僕は知らない。ただ、噂によると、あの日以来、彼が手塚の代わりを求めることはなくなった、と――





最近、不二くんは切ないなぁ。。。
塚リョ前提で。リョーマくんの誘い受け。小悪魔ですな(笑)
WANDSの曲です。【ふりむいて抱きしめて】。
中身は歌詞通りじゃないんですけど、台詞をパクらせて戴きました。
ちなみに…WANDS、知ってますよね?

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