シアラ・ルアラ


「雨も上がったし、帰ろうか」
「そうっすね」
 手を繋いで図書館を出る。
 突然の雨。そのおかげで部活は中止。他の部員達は雨の中を帰っていったけど、俺と不二先輩は図書館で雨が上がるまで暇を潰していた。
 というか、俺は雨が降る前から委員会でずっと図書館に居たんだけど。そこに不二先輩が『連絡係』ということで、部活の中止を知らせにきた。そんで、先輩はそのまま、図書館に居座った。というのがホントのところ。
 外に出ると、青空が広がっていた。さっきまでの土砂降りが嘘のようだ。
 これだったら、部活を一時中断するだけでもよかったかも。あ。それでもコートは水浸し、か。
「越前くん。もしかして、部活やりたかったなんて思ってない?」
「お、思ってませんよ」
 ドキリとして、俺は慌てて否定した。それがマズかったのか、先輩は、非道いなぁ、と言いながら優しく微笑った。
「部活が中止になったから、僕と越前くんはこうして一緒にいられるんだからね」
「……わかってますよ。んなの。」
 ぼやくようにして言うと、俺は視線を濡れた地面へと移した。上の方からクスクスと微笑う声が聞こえた。
 先輩は二人きりのとき以外は、俺のことを『越前くん』と呼ぶ。だから俺も周助のことを『先輩』とか『不二先輩』とか呼んでる。
 だから、お互いのことを名前で呼び合ってるのを知ってるのは俺たち二人だけ。俺と周助、二人だけの秘密。とはいえ、俺はついいつもの癖で、 二人っきりのときも周助のことを『先輩』と呼んでしまうんだけど。
「越前くん、あれ、見て」
 なんてことを考えていると、頭上から先輩の声が降ってきた。ほら、と指差す方へ視線を向ける。
 そこには、七色に輝く空の橋。
「虹、だ」
 初めて見た。水道の水なんかで故意に作るのを見たことはあったけど、実物は、これが初めて。
 暫く黙ってそれを見つめた後、俺は視線を虹から先輩へと移した。俺が虹を初めて見たことも、それがアンタと一緒だったってことに喜んでるってことも、何にも知らない横顔。
「綺麗だね」
 空の眩しさに目を細め、虹を見つめたままで先輩は言った。
 そういう先輩こそ、綺麗っスよ。
 声には出さなかったものの、自分の頭の中に浮かんだ科白に恥ずかしくなり、俺は慌てて虹へと視線を戻した。
 虹は、もう半分くらい消えかかっていた。
 消滅(き)えていくさまを見たくない、と先輩が言うので、俺たちは再び歩き出した。
 俺の家へと向かう道のりは、虹とは反対の方向だから、まだ虹が出ているのかどうかわからない。
 気になるから振り返ってみようかとも思うんだけど。それで本当に消えていたらイヤだから。見ないことにする。
 いつもは全然わからない先輩の気持ちが、ちょっとだけわかった気がした。

「〜♪」
 手を繋いで歩く帰り道。さっきから気になるのは、先輩が口遊んでる歌。
「それ、何て歌っスか?」
「『シアラ・ルアラ』」
 俺の問いに、先輩は顔を前に向けたままで答えた。
「しゃらら?」
「ううん。シ、ア、ラ、ル、ア、ラ。」
 今度は、俺の顔を見てゆっくりと言った。
「しあら、るあら」
「そ。『シアラ・ルアラ』」
 微笑い、俺がちゃんと聞き取れたのを確認すると、先輩は視線を前方へと戻した。
「それ、どういう意味っスか?」
 もう一回、俺のほうを向いて欲しくて。俺は先輩の横顔を見つめた。
「うーん。意味はこれといって…。何て言ったらいいのかなぁ」
 少し、困ったような表情をする。俺にはその半分しか見えてないけど。
「そうだね。幸せの合言葉、みたいな感じかな」
 先輩は俺に視線を落とすと、微笑った。
「しあわせの…あいことば?」
「うん。そんな感じ。なんでか解かんないんだけどね。幸せなとき、この曲が頭に浮かぶんだ」
「……幸せなときって、どんな時?」
「君とこうして手を繋いで一緒に帰ってるときとか、かな」
 クスリと微笑うと、先輩は繋いだ手を大きく振った。
 すっごく嬉しくて、ちょっとだけ恥ずかしかった。
「……シアラ・ルアラ」
「え?何?」
「あ。何でもないっス」
 先輩から眼をそらすようにして俯くと、オレはもう一度口の中で唱えた。
 シアラ・ルアラ。
 よくわかんないけど、響きがなんか好き。今の俺たちにピッタリのような気がして、好き。
 けど、こんな気分も、あと数十メートルで終わりかと思うと、ちょっと…いや、かなり淋しい。
 この幸せをもっと長く味わう方法は沢山ある。まずは、俺が素直になること。そんで…。
 俺は深呼吸をすると、先輩の手を強く握った。
「ねぇ、周助。」
「……何?」
「今日、アンタん家に行ってもいい?」





はぁ〜い、バカップルv
『シアラ・ルアラ』はRAMJET PULLEYというバンドの曲です(邦楽なり)。
しかし、誰も知らないだろうな。何せオリコン100位以内ギリギリではいる方々だから(苦笑)
リョーマが無理矢理に素直になるってのが、好きです。ベタ惚れしてるのが好きです。
しかし、幸せなのがこう続くと、反動が怖いね(笑)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送