理由


 あの人は誰が好きなんだろう。俺のこと、どう想ってるんだろう。訊きたいことはたくさんあるけど。いいたいことはただひとつ。
 でも、ホントのことは言えない。それを言うには、俺は、まだ、弱い。

「……どうしたの、越前くん。なんか今日、元気ないね」
 心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる先輩に、ビックリして顔を上げた。
「え?あ…」
 間近にある、先輩のキレイな顔に、心臓がバクバクいう。
「な、んでも、ないっス」
 その顔を押しやるようにして、遠ざける。やばい。自分でも顔が赤くなっていくのが分かる。声も、僅かだけど震えてる。
「あはははは。そんなに怖がらなくてもいいのに」
 少しだけ哀しそうに微笑うと、先輩は俺の頭を撫でた。別に、怖がっているわけじゃない。寧ろ、その逆…。
「何でもないなら、いいんだけど。体調悪いんなら、ちゃんと言わなきゃ駄目だよ。大会、近いんだし。君も手塚も、放っておくと、いつも無理しちゃうんだから…」
 そういうと、コート内にいる手塚部長を心配そうに見た。その横顔に、胸が痛む。先輩がいつも見ているのは手塚部長で俺じゃないんだって、改めて知らされる。同時に、俺がどれだけ先輩を好きなのかも。
 以前、噂で聞いたことがある。先輩と部長は付き合ってるって。多分、それは本当。確証はないけど。二人の空気を見てれば分かる。俺だって、いつも、先輩のことを見てるんだ。先輩が部長しか見てないみたいに。
 見つめる俺の視線に気付いたのか、先輩は俺のほうに向き直り、微笑って見せた。
「……ああ。今のは聞かなかったことにしてね。彼、自分の知らないところで自分の話題を出されるの、嫌うから」
 俺の唇にピンと立てた人差し指を当て、また微笑う。
「…言われなくても、忘れますよ。手塚部長のことなんか」
 先輩の手を除けながら、いった。俺の行動に、先輩は少々困惑気味の表情を浮かべる。
「本当に、どうしたの?今日はなんか変だよ?」
 やっぱり熱でもあるんじゃない?と言って、先輩のは俺の額に手をやろうとした。俺は触れられる前に、先輩の手を払う。
「越前くん?」
「…何でもないっス。ホント、何でもないっスから」
 先輩の顔を見るのが辛くて。俺は俯くと、先輩の靴をじっと見ていた。
 沈黙が流れる。部活は滞りなく進んでいて、うるさいはずなのに。自分の心臓の音がハッキリと聴こえる。先輩の呼吸も、分かる。
 突然、先輩が一歩近づいた。俺はビックリして思わず一歩、後ろに下がってしまう。それを見てなのか、先輩が小さく溜息を吐いた。
「……じゃあ、僕、練習に戻るから。もうそろそろ、手塚に怒られそうだしね。君も早く練習に戻った方がいいよ。無理のない程度にね」
 そういって、俺の頭をぽんぽんと叩くと、先輩は急ぎ足で手塚部長のところへといってしまった。

「………まだまだだね」
 手塚部長の横で笑顔を見せている先輩を見て、自分の不甲斐なさに溜息を吐いた。強くなれば先輩は振り向いてくれるのかな、なんて安易な考え。けれど、当面の目標はそこ。手塚部長よりも誰よりも強くなって、先輩に、少しでも多く、俺を見てもらうこと。
「……よぉし。」
 俺は大きく深呼吸をすると、練習を再開すべく、コートへと向かった。





これが一番好きかも。リョ→不二塚ってやつ。切ないですけどね。
リョーマ君が強くなろうと思った理由は、実はこうだった、と。
一応、不二塚ベースですが、リョーマの考えなんで、不二と手塚が実際に付き合ってるかどうかは不明。
案外、お互い気があるだけで、告白とかしてなかったりね。手塚、そういう事しなさそうだし(笑)
一途なリョーマ君って、ものごっつ好きです。

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