シュガーベイビー


「あっぢぃ〜」
 膝の上からカルピンを退けると、俺はでっかい溜息と共に呟いた。
「そう?」
 すぐ隣から聴こえてくる、涼しげな声。
「って。アンタは暑くないんスか?」
「うん。まぁね」
 眼だけで睨みつける俺に、先輩は微笑ってみせた。
 確かに、先輩は涼しそうだ。目の前にある手を握ってみても、汗でベタつくなんてことはないし。もしかして。俺って汗っかき?
 いや、それは違う。先輩が変なだけだ。
「じゃあ、エアコンの温度、もっと下げようか?」
 言うと、先輩はベッドに放り投げてあったリモコンを手にとった。
「ちょっ、待ってくださいよ」
 慌ててそれを取り上げる。
「何で?だって、暑いんでしょう?」
 俺の手にあるリモコンとオレを交互に見ながら、先輩は不思議そうな顔をした。
 ったく。
「設定温度。何度になってると思ってんスか?」
「えっとぉ…」
 苛立った声で言うオレに、先輩はいつもの調子で言うと、リモコンを取り戻した。
 表示されてる数字を見て、納得したように呟く。
「27度、だ」
「ったく。これ以上温度下げたら…」
「そっか。デンコちゃんに怒られちゃうよね」
 本当に困ったように言う。このヒト、どこまでが本気なんだかよく判んない。
「そうじゃなくって。ここ、俺ん家なんスよ」
「うん。」
「俺ん家では、27度以下にしちゃいけないんスよ」
「へー。何で?」
「ケチ坊主の命令で」
「……お父さんの命令、ネ」
 楽しそうに言い直す先輩に、俺は溜息を吐いた。リモコンを再び取り上げる。
 別に、あんな馬鹿親父の命令なんてどうでも良いんだけれど。母さんもウルサイからな。
 それに。
「もっと簡単に涼しくなる方法があるんスけど」
「なになに?」
 先輩が頬を寄せてくる。俺は握っていた先輩の手を離すと、眼だけで先輩を睨んだ。
「先輩が俺から離れればいいんスよ」
「ダーメっ」
 立ち上がろうとした俺を、先輩はがっちりと掴むと、更に強く抱きしめてきた。
 ……暑い。
 いくら俺の特等席が先輩の膝の上だからって…。
「だから、それが俺が暑い原因なんですってば!」
 ジタバタもがいてみるけど。抵抗するだけ無駄で。
「駄目だよ。リョーマ」
 耳元で。しかも甘い声で囁かれて、俺の身体から思わず力が抜けてしまう。
「久々のオフなんだよ?ここのところ部活ばっかりで、滅多に二人っきりになれなかったんだから。偶のときくらい、こうしていても良いじゃない。それに…」
 言いかけると、先輩は伝う汗を舐めとるようにして、俺の首筋に舌を這わせた。
「っ先輩?」
「リョーマの汗の匂いって、何か、そそるんだよね」
「なっ…」
「ねぇ、リョーマ。涼しくなる方法、教えてあげようか?」
 囁くと、先輩は抱きしめている腕から力を抜いた。その代わり、俺の肩を乱暴に掴むと、床に組み敷いた。
「こうすれば、涼しくなるでしょ?」
 背中に、ひんやりとした感触。確かに。涼しいような気もしないでもない。
 でも。
 この体勢。すっごく嫌な予感がする。
「でも、これだけじゃ、まだ涼しくはなれないよね?」
 不敵な笑み。
 自分の予感が当たってしまったことを確信した俺は、先輩の胸に手を当て、押し退けようとした。が。その手は先輩に掴まれ、逆に床に押し付けられてしまった。
「裸になればもっと涼しくなれるよ。それに、さ。久しぶりなんだし…」
 唇を重ねられる。
「いいよね?」
 囁き、微笑うと、先輩は返事を待たずに俺のシャツのボタンを外し始めた。
 俺の左手は空いてるから。抵抗しようと思えば、出来るんだけど。
「しょうがないっスね」
 さっきのキスで、俺は抵抗することを完全に諦めていた。
 っていうより。
「本当はリョーマもその気だったんでしょ?」
 核心を突くような先輩の言葉に、俺は眼をそらして頷いた。正確には、その気にさせられた、だけど。
 俺の気持ちを知ってか知らずか、胸の辺りで先輩がクスリと微笑った。
 なんか、今日は…今日も、先輩のいいようにさせられてる。ちょっとどころじゃなく、悔しい。
 だから。
「周助」
「何?」
 顔を上げた先輩の首に腕を回すと、俺は『不敵な笑み』というヤツを作ってみた。無論、お手本は目の前にいる俺のコイビト。
「でもさ。これって、余計に暑くなっちゃうんじゃない?」
「………あ゛。」
 軽くフリーズの入った先輩に、クスリと微笑うと俺は自分から唇を重ねた。





♪しゅが〜べいび〜き〜みにぃ〜な〜んでぇ〜もあ〜げよ〜お〜♪
相川七瀬『シュガーベイビー』
しかし、中身は関係ない(笑)
同タイトルの別の漫画の話を基にしているのでネ(自分のパクってどーすんのよι)

デンコちゃんの命令はちゃんと守りましょう!

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