Ohh! Paradise Taste!!


「よかった。ここに居た」
 ドアを開ける音と共に、嬉しそうな声が飛び込んできた。それに気づいて俺が振り返るよりも早く、背後から抱きしめられる。
「大石や桃に訊いても知らないって言うから。心配しちゃったよ」
 ピッタリと体をくっつけ、耳元で囁く。図書室には俺しかいないから別にいいんだけど。もし誰かが入ってきたら、困る。まあ、このヒトのことだから、閉館の札を掛けたか鍵を閉めてるんだろうけど。
 そんなことよりも。この季節。いくら冷房が効いているとはいえ…。
「……暑いんスけど」
「駄目だよ。遅れるなら遅れるって、僕にちゃんと報告してくれないと」
 俺の呟き無視すると、先輩はまた耳元で囁いた。といっても、抱きしめている腕に多少の力が加わったんだから、俺の呟きも俺がこの腕を解こうとしているってこともわかってるはず。
 溜息が出る。
「暑いんスけど」
「ねぇ、何やってるの?」
「不二先輩、だから暑いって…」
「周助って呼んでよ」
「……………。」
 やっぱり、ちゃんと俺の声は届いている。
 俺は溜息を吐くと先輩の腕から手を離した。横目で先輩を見る。
「しゅーすけ、暑いから離れてくんない?」
「うん」
 あっさりと頷くと、先輩は腕を離した。背中に感じた涼しさにちょっとだけ淋しさを憶える。でも、ここでそんな素振りを見せたら、何されるかわかんないから。俺はまた溜息を吐くと、先輩のほうを振り返った。
「で。不二先輩は…」
「周助。」
 俺の唇に人差し指を当て、優しく微笑う。俺はその指をとると、咳払いをひとつした。
「……周助は何でここに来たんスか?」
「んー。だから、部活に行ったらリョーマの姿が見当たらなくて。手塚も大石も桃も知らないっていうから。心配で探しに来たんだよ。でも、委員会でよかった」
 机に座ると、ほっとしたように先輩が微笑った。
「ったく。委員会じゃなかったら何なんだと思ったんスか」
「リョーマが可愛いから、どっかの悪いおぢさんとかに悪戯とかされてるんじゃないかってネ」
「………アンタ、それ本気でいってんスか?」
「勿論、本気だよ」
 真剣な顔で、俺を真っ直ぐに見据える。心配してくれることには嫌な気はしないんだけど。でも、なんだかなぁ。
「そんなことすんのは、アンタくらいしかいないっスよ」
 溜息混じりに呟くと、俺は椅子に座り、いっこうに終わりそうにもない作業を再開した。
「ねぇ、何つくってるの?」
 俺の隣に座った先輩が、机の上に散らばっている一定の形に切られた画用紙を手にとり不思議そうに言った。
「明日は何の日だか知ってます?」
「………あ。七夕だ」
「そ。これは明日ここに来たヒトが書く短冊」
 俺は穴の開いた画用紙を手にとると、先輩の前でその穴にたこ糸を通して結んで見せた。そして、何枚かの紙とたこ糸を先輩の目の前に並べる。先輩は何も言わずに紙を手にすると、糸を通し始めた。
 そのまま暫く、無言でその作業が繰り返された。
「でもさ、これ、どこに飾るの?」
 机に散らばっていたもの全てを短冊として作り上げると、先輩が呟いた。外を見ると、もう薄暗くなっていた。多分、部活は終わっているだろう。
 俺は短冊をまとめ、輪ゴムで止めるとカウンタへと入った。横になっている何本かの大きな笹を引っ張り出す。
「三年生がどっかからとってきたんスよ。これを入り口の所に飾っておくんです。隣に短冊を置いてっ…」
「っと。危ないなぁ」
 笹の重みでよろけた体を先輩が抱きとめる。
「気をつけないと駄目だよ」
 困ったように微笑うと、先輩は俺の手から笹をとり、ドアのところまで運んでくれた。だけじゃなく、用意されていた紐でその笹を机の足に縛り付けてもくれた。ひとりでそれをやるのは大変だな、なんて思ってたんだけど。先輩は難無くそれをやって…。華奢に見えても、意外に力強いんだよな、なんて思う。
「これでいい?」
「え?あ。っス」
 突然振り返られて、俺は思わず顔を背けてしまった。
「何?どうしたの?」
 訝しげな声が耳に届く。
「別に、何でもないっすよ」
 俺は先輩に背を向けると、奥の机に置きっぱなしになっていた短冊を取りにいった。背後でクスクスと微笑う声が聞こえてくる。
「……何、微笑ってるんスか」
「別に、何でもないよ」
 クスリと微笑うと、先輩は俺の手から短冊を取り、笹を縛り付けた机の上に並べた。
「ねぇ、リョーマ。君がさっき何を考えてたか当ててあげよっか?」
「え?」
 先輩の腕が伸びてきたと思ったときには既に遅く、俺はその力強い腕に抱しめられていた。
「見惚れちゃってさ。意外に力強い、とか思ったでしょ?惚れ直した?」
 優しい声が頭の上から振ってくる。図星を指された俺は何も言えないから、黙って先輩の背に腕を回した。だって、どうせ違うって言ったって、このヒトに嘘は通用しないし。
「ふふ。可愛いね、リョーマは。そうだなぁ、どうにかしてこれを……」
 俺の頭をニ、三度優しく撫でる。
「あ。そうだ。僕たちもやろう」
 楽しそうに呟くと、先輩は俺から体を離した。何のことかわからずにいる俺をそのままに、先輩は笹を眺める。
「……うん。ここらへんがいいかな」
 呟くと、先輩は何の前触れもなく笹の上のほうを折った。
「ちょっ、何折ってんスか?」
「何って?笹だよ」
「笹って…。そーゆー意味じゃないんスけど」
「大丈夫だって。バレないバレない。……はい。」
 自信たっぷりに言うと、先輩は俺にその笹を差し出してきた。過ぎたことは仕方がないので、とりあえず、受け取る。
「僕たちもやろうよ。七夕」
 二枚の短冊を、俺の目の前でひらひらと振る。ものすっごく楽しそうな笑顔。思わず溜息。
 ときどき、このヒトの年齢がわからなくなるよ。大人なんだか子供なんだか。翻弄されてる俺は、まだまだで。全然ガキなんだろうな、なんて。
「ってかさ、別に折らなくても、フツーに短冊を飾ればいいじゃん」
 どこから持ってきたのか、折り紙で飾りを作り始めている先輩に、俺は溜息まじりにいった。が。
「わかってないな、リョーマは」
 逆に溜息混じりに返されてしまった。
「何が」
「リョーマと僕の二人だけでやろうっていってるんだよ」
 俺の手から笹を取り上げると、無防備だった俺の唇に自分のそれを重ねてきた。
「だから、勿論、無記名のお願い事なんて駄目だからね」
 その言葉と笑顔に、俺の願い事は初めから決められているような気がした。





何なんだ、この話はι
いや、だって、レポートが…。
言い訳すんなぁっ!o-_-)=○)゜O゜)

はい。と、いうことで。
無邪気な不二くんに翻弄されるリョマさん。
しかし、実の所、無邪気なのはフリだった、と(笑)
何故か書いている途中で愛内里菜の『Ohh! Paradise Taste!!』が頭の中をグルグルしてきたよ。
つぅわけで、タイトルに決定!(なんていい加減なι)

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