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「どうして。君はそんなに僕の事を独り占めしたがるの?」
 僕の膝の上を陣取り、ゲームに熱中している彼に問い掛ける。
「だって、アンタは風だから」
 僕の事を見ずに、答えた。むくれたような言い方とその回答は、この種の質問をしたときの決まり事。
 彼曰く、僕は『風』らしい。いつもふわふわと移動しているから。だからどこにも飛んでいかないように縛り付けておくんだとかなんだとか。
 全く。そんな発想、一体どこから来るんだか。
「僕はどこにも行かないよ」
 苦笑しながら言う。
「行くよ。周助が欲しいのは俺じゃなくてスリルなんでしょ?俺以上のスリルを見つけたら、振り返ることもしないで俺の前から消えちゃうんだ」
 ゲームのスイッチを切り、僕に寄りかかる。
 スリル、ねぇ。確かに、興味を持ったのはそこだけど。それは単なる切欠だから。
 僕は彼に気付かれないように小さく溜息を吐いた。抱しめている腕に力を入れる。彼は少しだけ嬉しそうに微笑った。
 この手は、彼が膝の上に座った時から一度も離していない。二人きりの時、自分以外のものに僕が触れていることが許せないらしい。離すとすぐに怒る。そのくせ、彼は僕をそのままにゲームをすることが常。まあ、同じ空間を共有する事を目的に彼の家に足を運んでいるのだから、僕はそれで構わないんだけど。
 彼の手が、僕の手に重なる。コントローラーを握りしめていた所為だろうか。その手は、いつもよりも温かい。
 求められてるっていうのは嬉しいけど。こういうのは、なんか違う気がする。
 君が居て、僕が居る。それだけで。僕は充分幸せになれるのに。
「……君は、それだけじゃ満足(た)りない?」
「何?」
 僕の呟きに、彼が見上げる。聞き流すと思ったのに。僕は苦笑した。
「いや。リョーマは欲張りだなって思ってね」
「……何の話っスか?」
 穴だらけの僕の言葉に、ワケが解からないとでもいいたげな顔。でも、多分。ちゃんと言っても解からないよ。
「僕はね。君と。リョーマと一緒に居れるだけで幸せなんだよ」
 クスリと微笑う。けれど、彼は眉を寄せたまま。
 また、溜息が出てしまう。
 僕は彼を抱しめている腕を解くと、指を絡めた。もう一度彼を強く抱しめ、耳元で囁く。
「ねぇ、リョーマ。どうすれば、君は満足してくれるのかな?」
 短い沈黙の後、彼は僕の腕を解き立ち上がると、今度は向かい合うようにして膝に座りなおしてきた。僕の首に彼の腕が絡められる。
「俺はいつもアンタだけを見てる。だからアンタも。俺だけを見て。俺にアンタの本気を見せて」
 僕だけに向けられる、真っ直ぐな眼。そこに移る自分の姿に、苦笑した。彼の眼の中に居る僕は一体どんな人間なのだろうか、と。
「僕は、いつだって君だけを見てるよ」
「今は、でしょ?」
「今までも、これからも、だよ」
 彼を抱き寄せ、唇を重ねる。
「……嘘吐き」
 クスクスと微笑いながら、彼が呟く。
 ……どっちが。
 彼はいつも僕を見ていると言う。でも僕の気持ちを見抜けないんじゃ、そんなの、見てるなんて言えないよ。
「信用、ないんだね」
 本当の事は言わず、苦笑いを浮かべてみせた。
 今まで、彼の言動や行動に何度傷ついたか知れない。けれど。それでも総て許せてしまうのは、僕はそれほどまでに彼が好きだから。
 幸せだと思う。好きなヒトとこうして一緒に居ることが出来るなんて。
 ただ、残念なのは、この気持ちが彼には届いていないという事実。この想い、どうしたら、君に伝わる?
「じゃあ、信用させて?」
 僕の本心を知らない彼は、悪戯っぽい笑みを浮かべるとゆっくりと体を後ろに倒していった。僕を見上げる。
「俺に、アンタの本気を見せて」
 天使のような、小悪魔な笑み。もしかしたら、僕は彼のこういう性質に魅かれたのかもしれない。だとしたら……。
「了解。」
 僕が風なら。君は大方、我侭な子猫ってところかな。
 クスリと微笑うと、僕は彼に口付けた。





妙に攻めっぽくなっちゃったね。我侭なリョーマを書きたかっただけなのに。
つぅか、ほのぼのな路線で行くはずだったのになぁ。全然違うねι
ああ、タイトルどぉしよぉ〜。(※現時点では考えてません)

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