apple -only one, only you-


「どうしたの?」
 ドアんとこに立ったままなかなか入ろうとしない俺に、周助は困ったように微笑った。
「おいで」
 ベッドに座り、膝を叩く。俺がいつもカルピンに対してやってるのと同じ仕草。まるで猫扱い。別に、それは悪くない。でも、今日は従わない。
「……お邪魔します」
 久しぶりに使うこの言葉。何となく新鮮な気持ちになり、俺は微笑った。不思議そうに俺を見つめる周助の隣に座る。本当は、今すぐにでもその膝に乗っかって、甘えたいんだけど。今日だけは、周助の思い通りになんかなってやんないんだ。
「リョーマ?」
 触れ合った手を握ると、周助が顔を覗き込んできた。そのまま、唇を重ねられる。
「……ん。なに?」
「何、って」
 吐き出された熱い息とは反対の、冷静な口調。頑張って平静を装ったお陰か、周助は俺の声に戸惑った顔をした。それでも、キスは止めない。
「……怒ってるの?」
「何が?」
「クリスマスイブに君を連れ出したこと。」
「………そう思うんなら、それ、止めてくんない?」
 呟いて、周助の口を両手で塞ぐ。ごめん、と周助は淋しそうに微笑った。
 戸惑いの空気が流れる。いつもだったら強引な態度に出るはずなのに。今日という特別な日のせいか、周助は何もしてくる気配は無かった。まあ、態度が違うのはお互い様だけど。
「別に。怒ってない」
「ホントに?」
「だって、俺ん家、クリスマスなんて関係ないから」
「……そういう意味じゃ、無いんだけど」
 解かってる。どういう意味かくらい。でも、今日くらい俺が我侭言ってもいいじゃん?たまには、周助が我慢しても。
「俺、どっか行きたい」
「え?」
「だって、不公平じゃん」
「不公平って…。何が?」
 突然の俺の言葉に、周助は戸惑い気味の視線を向けた。いつもなら俺の考えてること解かってくれるのに。何で今日に限ってそんな顔すんの?
「だからっ。俺は周助に連れ出されたのに、周助は俺に連れ出されないなんて不公平だってんの」
 いっつも、周助ばっかり決めててさ。俺だって、偶には…。
「ねぇ。今日が何の日だか知ってんの?」
「クリスマスイブ、でしょ?」
「そうじゃなくて――」
「それと、リョーマの誕生日」
「……あ。」
 憶えてたんだ。
「忘れてると思った?」
「うん」
 周助の言葉に、俺は思わず素直に頷いてしまった。それを見た周助が、いつものように微笑う。
「そっか。それで拗ねてたんだ」
「別に、拗ねてたわけじゃっ…」
 覗きこんでくる周助から顔を背けようとして、失敗した。気がつくと俺は周助の腕の中で。唇には微かな温もりが残っていた。
「忘れてないよ。忘れるわけ無いじゃない。こんな大切な日」
「……しゅう、すけ?」
「だって、リョーマが生まれた日だよ?13年前の今日、君リョーマが生まれたから、僕たちはこうして出逢えた」
 ふ、と優しく微笑い、俺の額に唇を落とす。俺は周助の腕を解くと、その膝の上に座りなおした。温かく力強い腕が、再び俺を包む。
「何かそれ、大袈裟」
「そんなこと無いよ。リョーマと出逢えてなければ、僕はこんなに幸せな気持ちを味わえなかったんだ。君を産んでくれた両親に感謝しなきゃね」
「いいよ、あんな馬鹿親父に感謝なんかしなくて」
「君が生まれてきた奇蹟に感謝したいんだよ。ね?」
「……勝手にすれば」
 よくもまあ、ここまで恥ずかしい言葉を並べられるな、なんて思ったけど。その言葉に顔が赤くなっちゃってるから。まだまだだね、と心ん中で呟くと、回された手に指を絡めた。
「そうだ。今日、泊まってくでしょ?」
 クスクスと微笑いならが、周助が俺の耳元に唇を寄せる。
「いいの?だって、毎年クリスマスは家族でって…」
「それは去年まで。姉さんと母さんは父さんのところに行ってるから、明後日まで帰ってこないよ。勿論、寮生活してる裕太もね」
「……追い出したんだ」
「リョーマが、ね」
「…………何、それ」
 俺の呟きに、周助が愉しそうに微笑う。そして目の前に差し出される、赤いもの。
「メリークリスマス。そして、誕生日おめでとう」
「……うん。」
 頷くと、俺はそれを両手で受け取った。





珍しく、初めから「周助」って呼んでる。
嶋野百恵さんの世界観を文章にするのは難しいね。♪クリスマス〜イブのアップル♪
とりあえず、不二くんは言うこといちいち恥ずかしいです。否、書いてるアタシが恥ずかしいヤツです。
リョーマくんはたまに逆襲を試みるけど、いつも失敗に終わるね。
まあ、そこらへんは不二くんの愛のほうが強いって事で。
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