KISSIN' NOISE


 可愛いね、と微笑って優しくキスをする。やめて欲しい。どうせそんなのウソなクセに。
 逃げ出したい。二度と会いたくない。その笑顔も優しい口付けも温かい腕も。全部嫌い。
 俺の名前を呼ばないで。俺を見ないで。俺に触んないで。イヤなんだ。あんたの全てが。
 俺はあのヒトは嫌いだ。嫌いなハズなのに…気が付くと、俺はいつもあのヒトの隣にいる。
 そして、今日も、また…

「どうしたの?越前くん」
 俺を後ろから抱きかかえるようにしてテレビを見ていた先輩が、急に耳元で囁いた。驚いた俺は、ボタン操作を間違えてしまう。
「あ。」
「…やられちゃったね」
「………先輩のせいっスよ。いきなり話し掛けたりするから」
「ごめんごめん。でも、考え事してるみたいだったから、いいのかな、って思ってね」
「…何の、ことっスか?」
「………さぁね」
 抱きしめている腕に力を込める先輩に、俺は溜息を吐くと、セーブをして、ゲームを終わらせた。
「あ。やめちゃうの?」
「こんなんじゃ、集中できないっスから」
「集中力ないんだね」
「…………。」
 誰のせいだよ。
 悪態を吐こうとしたけど、止めた。このヒトがクスクスと微笑ってる時は大してイイコトがない。反論しても、きっとすぐに返される。
「ねぇ、越前くん」
 急に首筋を舐められる。ガードしてなかったせいで、その刺激に小さく声を漏らした。
「なんスか?」
 クスクスと、嫌な微笑い声だけが耳に残る。
「さっき、何、考えてたの?僕の事?それとも、僕以外の誰か?」
 微笑いながら問う先輩。俺は答えない。
 暫く黙っていると、首筋を這っていた先輩の舌が耳の方へと上がってくのを感じた。どうにかして腕から抜け出そうともがいてみるけど、しっかりと抱きしめられているから、全然動かない。
 ねっとりとした感触が耳を覆う。声を出さないようにと神経を集中させる。
 …それが、いけなかったらしい。
 気持ち悪いだけの先輩の舌が、別の感情を引き出し始めた。心臓の音が速く、大きくなる。
 いつものパターン。嫌だと思ってるはずなのに、気がつくとこのヒトに全てを委ねてる。
 でも、そんなの…
「や、だ…」
 言って、俺は身をよじった。でも、やっぱり動かない。後ろでは先輩が微笑ってるのがわかる。悔しい。
「何が厭なの?」
 言うと、先輩は俺の耳朶を噛んだ。突然の強い刺激に、俺は堪えていたはずの声を漏らした。クスリ、と先輩が微笑う。
「君はいつもそうだよね。僕の事、嫌いなくせに。感じるとこは感じるんだから」
「!?」
 予想もしていなかった言葉に、俺は一瞬、動けなくなった。その隙をつかれ、気がつくと俺は先輩に組みしかれる態勢をとらされていた。
「ねぇ、君は何がしたいの?」
「………ぁ。」
 蒼い眼。綺麗な眼。この眼だ。俺の嫌いな眼。すごく嫌いで、すごく好きな…。
「ゲームをしてる時、君は何を考えてたの?」
 尋問されてるみたいだって思った。本当のコトを言ったらどうなるか解かってるのに、言わなきゃいけないような感じ。普通の口調で訊かれるから、よけいに恐い。
 俺は生唾を飲み込むと、ゆっくりと口をあけた。
「……なんで、俺、先輩のこと嫌いなのに一緒にいるんだろうって」
 驚くほど弱い声。微かに語尾も震えてる。俺、何が恐いんだろ。何でこのヒトに逆らえないんだろ。
「………それだけ?」
 感情の読めない声色。俺はかぶりを振ると、言葉を続けた。
「あと、先輩は、俺のこと嫌いなのに、何で一緒にいたがるんだろうって……」
 言いながら、なんか涙が出てきた。拭いたいけど、両手は先輩に掴まれてて。横を向こうにも、その眼が放してくれない。
 見詰め合ったままで、暫く時間が過ぎた。突然、先輩の口もとに笑みが浮かぶ。
「……そう。」
 溜息みたいに呟くと、先輩は俺から身体を離した。自由になった俺は起き上がり、急いで涙を拭く。
「結構本気だったんだけどね。君には伝わってなかったんだ」
「………え?」
 哀しそうな先輩の声。初めて聞いた声。驚いて俺は顔を上げた。声のした方に目をやる。ドアに手をかけた先輩は、哀しい眼を俺の方に向けてた。
「ごめんね。今まで嫌な思いさせちゃって。初めて誰かを本気で好きになったもんだから、どうしていいのか……。本当は苦手なんだ。他人とのコミュニケーション」
「……不二、先輩?」
「でも、信じて欲しいんだ。僕が君を好きだったことだけは」
 言うと先輩は俺に背を向けた。ドアを開け、一歩だけ外へと踏み出す。
「帰るよ。もうここには来ない。これで君は自由だ」
「ちょっ、せんぱ…」
「バイバイ。越前くん」
 振り返り、哀しげな笑みを向けると、先輩はドアを閉めた。
 呆然としている俺の耳に、先輩の階段を下りてく音だけが聞こえてくる。
「……勝手なやつ」
 俺がアンタのコトを嫌いだって知ってんなら、何で一緒にいたんだ。何で好きだなんて言ったんだ。何で今更になって…。
「あんな顔っ……」
 自由になれたはずなのに、何でこんなに哀しいんだろ。何で泣いてんだよ、俺。解かんない、解かんないよ。ねぇ、先輩。アンタならこの答え知ってんでしょ?何とか言ってよ。戻ってきて、今のは悪い冗談だって…。





多分、一年くらい前に書いた奴。リョーマ切ない率5割のとき。
『振り向いて抱きしめて』とかぶってるきがしたから、アップせず、そのままPCで眠ってた。
タイトルはGLAYさん。しかし全く関係ないねι
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