ケータイ


 逢いたいって、強く想う時がある。
 その声が聞きたい、その顔が見たい。その手に触れたい。そう願う時。
 そういうときに限って、彼は必ず僕になにかしらのサインを送ってくれてた。
 通じ合ってる?
 そう、思いたかった。
 でも、もう二年も逢ってない。
 本当の気持ちは、お互い、知らないままだ。君の気持ちも。僕の気持ちも。総て、互いの胸の中で。
 時々、見えるような気もするんだけど…。臆病なのかな。その勇気が出ないんだよね。

 真夜中、突然鳴り響く電話。携帯の液晶に表示されるのは、見たことも無い数字。
 誰だろう?こんな時間に。不審に思ったけど。この番号を知ってる人は限られている。
「……はい。」
 僕は、とりあえず出てみることにした。
「………。」
「もしもし?」
「………。」
「?」
 返ってきたのは、沈黙。
 誰?何?悪戯?
 溜息を吐く。こんな夜中に、なんなんだよ、一体。悪戯だと思い、電話を切ろうとした。その時、聞こえた、小さな声。懐かしい声。
「……不二せんぱい?」
 聞き覚えのあるその声に、少しだけ、胸が躍る。
「越前、くん?」
 恐る恐る。頭に浮かんだ名前を呼んでみる。
「よかったぁ。まだこの番号残ってったんスね」
 嬉しそうに言う彼の声。越前くんで間違いは無いらしい。ほっとすると同時に、湧き上がる疑問。
「どうしたの?こんな夜中に」
「えっ?…あー…えーっと」
 彼が言葉に詰まる。本当に、どうしたというんだろう。
 記憶の糸を辿ってみる。そう言えば。確か、僕が青学を卒業する時に、携帯番号とメールアドレスを彼に教えたっけ。でも、それっきりで。一度もかかってきた例は無かった。そう、今の今まで、2年間も。
 なのに、何で今…?
「あの、っすね。その…俺、ケータイ買ったんスよ。で。どうしようかとも思ったんスけど、やっぱり、教えといた方がいいかなって思いまして」
 少し、照れたように言う。僕と話すとき、彼はいつもそうだった事を思い出す。尤も、テニスコート上では別だったけれど。
「……僕の、携帯番号を教えたとき、メールアドレスも教えたよね?」
「え?あ、はぁ」
「だったら、メールでも良かったのに」
 こんな夜中に電話してこなくても。僕は笑った。
「…迷惑だったっスか?」
「え?」
「だからっ…こんな時間に、やっぱ、迷惑だったっスか?」
 らしくもない、弱い声に、僕はまた笑う。
「別に、迷惑なんかじゃないよ。寧ろ君の方が。こんなに遅くて平気なの?」
「……らぃじょいぶっス」
 ライジョウブって…。欠伸、噛み殺してるじゃないか。
「早く寝たほうがいいんじゃないの?ほら、寝る子は育つってよくいうしね」
「俺、背ぇ伸びましたよ」
 クスクスと笑い声を上げる僕に、少し、不満そうに彼が言った。
「知ってるよ」
「…会ってないのに?」
「君の事はテニスを介して、よく耳にするからね」
「そういえば、俺も、先輩の話よく聞くっスね」
「でしょう?」
 そうっスね、と言って彼が笑った。つられて、僕も笑う。
 お互いが何をしているのか、テニス上の事なら知っている。でも、それ以外の事、本当に知りたいことは全然解からない。そう言えば、卒業してから一度も逢ってなかったっけ。大石や英二なんかはよく青学に顔を出しに行ってるみたいだけど。
「……なんかさ、こうやって話すのも変な感じだね」
 ただでさえ、久しぶりに聞く声に浮かれてるのに。
「俺、ちょっと緊張してるっス」
「あはははは」
 こうやって、二人で話すことなんて、滅多に無い。
 他愛ない会話を交わした後、僕は最初から感じていた疑問を彼にぶつけるべく、深呼吸をした。
「………それより、さ。」
「はい?」
「何か、用、在ったんじゃないの?やっぱり、携帯買ったのを知らせる為だけに電話するっていうのはおかしいよ。君らしくないかなって、僕は思うんだけど」
「………。」
「僕の、思い違い、かな?」
「………んス。」
「え?」
 小さな声で、彼が呟く。微かに聞き取れたけど、聞き間違いかもしれない。
「越前くん、今、なんて…」
「だからっ。………声が、聞きたかったんスよ」
 もう一度。今度は少し声を上げて、繰り返される言葉。どうやら、僕の聞き間違いではないらしい。
「えーっと…」
 嬉しいのに。何て言ったらいいのか解からない。次の言葉を捜していると、受話器の向こうから、溜息が聞こえた。
「すみません。何言ってんだろ、俺。やっぱ、迷惑だったっスよね。ははは…。じ、じゃあ、俺、もう切りますから…」
「…じゃないよ」
「え?」
「迷惑じゃない。嬉しいよ。僕も、聞きたかったから。君の、声」
 落ち付け、と自分に言い聞かせる。今なら言えそうな気がする。ずっと言いたかった気持ち。本当の、気持ちが。一度だけ、わざとらしく咳払いをした。
「ずっと、好きだった。君のこと。」
 言葉を切り、一言一言をはっきりと伝えた。
「………。」
 彼からの返事は、ない。当たり前、か。男から告白されて嬉しい奴なんて、そうそういない。
「まあ、今更、だけどね」
 なんて。言い訳。彼は今、何を想ってるんだろう?電話は直接会うのとは違うから。表情とか、わからないし。まして声を出さなければ。感情を読み取ることは出来ない。…やっぱり、電話は苦手だな。僕が人にあまり番号を教えなかった理由の一つがそこにある。
「………だ」
 微かに聞こえた声に、僕は耳をそばだてた。
「越前、くん?」
「『好きだった』んだ。過去形なんだ」
 受話器の向こうから聞こえる声は、僅かに震えている。
「泣いて、るの?」
「………。」
「えちぜ…」
「俺、ずっと好きだった…いや、好きなんです。不二先輩のこと。今でも、ずっと…」
 思いもしなかった返事。不覚にも驚いてしまい、僕は、声が出なくなってしまった。
「でも、先輩にとっては過去のことなんスよね」
「……そんなことないよ。」
「え?」
 やっとのことで、声を絞り出す。大きく深呼吸をして、受話器越しに微笑ってみせる。
「僕も、君が好きだよ。今でも、ね」
「……本当っすか?」
「本当。……残念だよ。もし君が目の前に居れば、抱きしめることが出来るのに」
 これだから電話って不便だよね、と笑う。つられてか、彼の笑い声が聞こえてくる。
「…逢いたいな」
「え?」
「ねえ、今から逢わない?」
「今からって…こんな時間にっスか?」
「こんな時間に電話してきたのって誰だっけ?」
「………別に、いいっスけど。」
「よし。じゃあ、決まりね」
「そのかわり」
「ん?」
「その換わり、条件があるんスけど」
「なに?」
「名前。呼んで欲しいっス。『越前』じゃなく」
「いいよ。じゃあ、僕のことも『先輩』じゃなく『周助』って呼んでね。もう部活の先輩、後輩の関係じゃないんだし」
 そう、これから僕たちは『恋人同士』という関係。
「しゅうすけ?」
 名前を呼ぶことに慣れてないのか、照れながら彼が言った。それが凄く可愛くて。僕は声を上げて笑った。
「笑うなんて酷いっすよ」
「ごめんごめん。じゃあ、今からそっちに行くから。待っててね、リョーマ」
「………うん」
 今度は、名前を呼ばれたことに、彼が照れた。僕は笑いながら電話を切った。
「さて、と」
 僕は大急ぎで仕度をしないとな。バイクで迎えに行ったら、彼は驚くだろうか。





情けなさげ。白不二のつもりだが…。
そうでもないか。灰色だな(笑)
えー、不二くんは、もう、コウコウセイなんで、バイクに乗れます。
ヘルメットが二つあるのかどうかは不明だけど、
リョーマくんを後ろに乗せて、これから夜の街へGO!です(笑)

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