08 .試合前


 大きく息を吸い込み、そして吐き出す。グリップを握り締めると、自然と口元に笑みが浮かんだ。
 ドキドキする。落ち着かせるように、もう一度深呼吸をした。宙を仰ぎ、風を感じる。
 彼を前にするといつも感じる、このドキドキ感。彼に出逢って初めて知った、スリルという感情。
 ゲーム感覚で彼と対峙するのは失礼かもしれないけど。もともと僕には本気なんてものが存在しないのだから。何かしらの感情を持って試合に挑むってことは、珍しいんだ。
「……緊張してるんスか?」
 向かいのコートから聞こえてくる、生意気な声。ゆっくりと眼を開け、彼を見つめる。
「うん。そうみたい」
 笑顔で言う僕に、彼はつまらなそうに舌打ちをした。その姿が可愛くて、僕は小さく笑った。
「どこが緊張してんスか。ったく。アンタはいつもそうやって…」
「緊張、してるよ。ドキドキが止まらないんだ。ま、それは、君に触れてるときの比じゃないけどね」
「ばっ……」
 一瞬にして、彼の顔が赤くなる。きょろきょろと辺りを見回すと、彼は小さく咳払いをした。
「バカじゃないっスか。恥ずかしい…」
「恥ずかしいことなんてないよ。事実だしね」
 大きく伸びをし、宙を仰ぐ。少し、手が震えているようだ。柄にもなく、本気で緊張してるんだね、僕は。
「さて。お喋りはここまでにして、試合を始めようか」
 ポケットからボールを二個取り出し、ライン際に立つ。彼は待ってましたとばかりに眼を輝かせると、帽子を深く被り直した。
「賭けの内容、覚えてる?」
 僕が勝ったら、来週の週末は彼が僕に付き合う。彼が勝ったら、その逆。ま、何をするのかは、だいたい想像できるけど。
「覚えてるっスよ」
「じゃあ、行くよ」
 言うと、彼の口元に笑みが浮かんだ。僕の口元にも、自然と笑みが浮かぶ。
 全然違うと思ってたけど。もしかしたら僕たちは似てるのかもしれない。強さとスリル。求めるものは違っていても…。





不二とリョーマの共通点。
庭球作家に20題で、惜しくも載せられなかった話。
つぅか、短いなぁ。。。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送